失われた骨をつくる！？

『骨造成（こつぞうせい）』

当院歯科・口腔外科担当医の江口です。

今回は、当科で行っている、少し進んだ専門的な治療法についてお話したいと思います。

『こんなことまでできるの！？』『うちの子にも人間並みの専門的な治療を受けさせたい！』

そんなご興味ある飼い主さんは、お読みください。

さて、本題になりますが、『骨造成（こつぞうせい）』という言葉を聞いたことがある飼い主さんはいますか？

初耳という方がほとんどだと思いますが、もしこの言葉をご存知であれば、おそらく医療関係の方か、歯科でインプラント治療の経験がある方か、歯科に強いご興味がある方と思います。

実をいうと、骨造成（骨増生）とは、主に人間で行われている治療法です。

歯周病などが原因で、歯のまわりにある骨が壊れて、骨の量が相当量減ってしまった場所に対して、骨を移植するなどして、『骨の量を増やす再生治療の一種』です。

なんで骨の量を増やすの？といいますと、これは、多くの場合、歯科インプラント治療（俗にいうインプラント）が関係しています。

ちなみに動物にインプラントをするというお話ではありません（笑）

少し余談をしましょう。

『歯科インプラント』はご存知でしょうか？ＴＶでも、芸能人の方がよくインプラントやりましたなど、話されているのを目にしますよね。

歯科インプラント治療とは、失った歯のかわりに、人工の歯の根っこを、あごの骨に植え込み、その上に人工の歯を入れることで、自分の歯のように噛むことができるようにする治療です。インプラントとは『骨に植え込まれる人工の歯の根っこ』のことです。

もしインプラントをしたくても、植え込みたい場所に骨が少ないと、インプラントを植え込むことはできません。

そういう場合に、骨造成が行われます。

骨造成により、骨の量を増やし、十分な骨ができれば、インプラントを植え込むことができるというわけです。

実は、人間の歯科医療では、インプラント治療が広く行われている経緯があるので、骨造成に使用する材料や手術方法などに至るまで、つまり骨の量を増やす技術は、動物医療分野よりかなり進んでいると思います。

そうした人間の歯科・口腔外科の技術を活かして、当院では、イヌやネコのお口の病気の治療に行うことがあります。

イヌやネコに歯科インプラント治療をする機会はほとんどありません。これはまた今度お話しましょう。

さて、どういった病気の場合に、当科でイヌやネコに骨造成をしているかといいますと、

1. 歯周病が進行しすぎて、骨が大幅に壊れて薄くなり、放っておくと、あごが骨折しそうな場合
2. 口腔がんなどの腫瘍、のう胞、骨髄炎などの手術で、あご骨の一部を大きく取らないといけない場合などといった場合があります。

骨造成は『人工の骨や自分自身の骨（自家骨）』を使用します。場合により血液からとった再生因子を混ぜて骨の量を増やすことをします。これを骨の減った部分へ移植します。

自分自身の骨のほうが、人工骨に比べて、感染に強くなじみもいいので、当科では、移植に必要とする骨の量が多くなければ、口の中の手術からとれる自家骨を一部採取し、これを人工骨と混合して使用しています。

もちろん、必ずしも、骨造成をするわけではありません。

費用面では、やはりそれなりにかかってしまう治療ですし、デメリットや、適応外で、できない場合もあります。

ただ、適応になる場合、行うメリットが高い場合には、その必要性はお話しています。

すべて飼い主さんの希望を尊重しておりますので、この治療法は、飼い主さんが強く望まれる場合に限り、ご相談の上行われる治療とご理解ください。

今後も、より専門性のある獣医歯科・口腔外科医療についてお伝えしていきます。ご興味のある方は当院、歯科・口腔外科担当医　江口まで、ご相談ください。

今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。