ご紹介
「動物は痛みに強いから・・」
という言葉は以前よく言われておりましたし、そのような部分もあるかもしれませんが、近年では人間のように局所麻酔のための神経ブロックや、手術前後の鎮痛処置など、動物の痛みを積極的に緩和させてあげようという流れがあります。
「痛みはあるんですか?」
「痛いとどんな症状が出るんですか?」
と飼い主さんからも聞かれることが多いですが、動物は言葉を話すことができないので痛みがあるかどうかは正直わからないことがあります。
鳴いている時は確かに痛みがある時に出やすい症状ですが、それ以外にも震える・元気がないなど、痛みでもそれ以外でも共通する症状が出ることもあるのです。痛みはストレスホルモンを増加させますし、ある論文では、痛みを緩和することで術後の傷の治りに差が出るという報告もあります。
ですので、当院としても
「痛みがあるかわからないけど、痛みがある可能性があればその苦痛は軽減してあげましょう」の姿勢ですが、
江口先生も共通の認識で、今回のコラムでは口の痛みをトピックとして解説してくれています。
「診断の8割は飼い主さんとの会話」をモットーに、二次診療施設と連携し、あらゆる角度から飼い主さんやペットにとって最良の治療を目指す街の獣医さん。
御世話になります
当院歯科・口腔外科の江口です
今年最後の歯科コラムです
今回は、『動物はお口の痛みに強いの?』がテーマです。これは言い換えれば、人と比べて動物はお口の痛みに強いのか?というお話です。
ダブルライセンスとして、人を診療してきたこれまでの歯科医の経験と、犬・猫を診療してきた獣医のこれまでの経験を重ね合わせて比較したから言える、私なりの見解で、お話します。これはあくまでも、私個人の解釈となります、ご了承ください。
いつものように余談からはじめましょう。
まず、『痛い』というのは、非常に主観的なもの、つまり自分自身が感じている感覚(自覚)です。痛いと感じているのは、本人・その動物にしか、分かりません。
人の場合ですと、『私のいま感じているこの痛みは、あなたには、実際には分からない』
動物の場合ですと、『その動物が感じているこの痛みは、獣医にも飼い主さんにも、実際には分からない』
そういったものです。
よく分からんという場合は、ちょっと、想像してみてください。あなたが例えば歩いていて、よそ見していたら、電柱に頭をぶつけたとします。『ぐわっ痛ぇぇぇ~!!!!ヤバい涙が!』きっと、単純にむちゃくちゃ痛いですよね?痛すぎて涙がでちゃうとします。このときに感じているあなたの痛みは、ぶつけた本人しか分からない感覚ですよね。つまり主観(自分)的なものです。
それを偶然、目撃していた人がいたとしましょう。あなたが電柱に頭をぶつけて涙を流し、悶絶している様子をみれば、ふつう、『うわっ~、あれは痛そうだな』となんとなく思いますよね?このとき、目撃した人は、痛そうとは思っても、自分が痛みを感じるわけではないですよね?
この『あれは痛そうだな~』というのは、他人からみての感想、つまり客観(自分以外)的なものです。
例えば、これを患者さん、お医者さんという状況に置き換えてみますと、この患者さんの訴える『痛い』という主観と、お医者さんからみた『これは痛そうだな』という客観がマッチしないと、患者さんは『私はこんなに痛いのに、先生は何も理解してくれていない、ひどい!』となってしまうわけです。
たとえば歯医者さんで、こんなシュチュエ―ションがあったとします。
患者さん『先生、虫歯の歯があって、冷たいものがすごくしみます、治療してください』
先生『OK、虫歯をけずりましょう(これくらいなら、部分麻酔なしでいこう、そんなに痛そうでないし・・)』
患者さん『キィィン、ガリガリ~痛い痛い痛い(涙)麻酔してほしかった、もうやめて~(泣)』
先生『我慢してくださいね~もう終わるよ~』
先生『終わりましたよ~、ちょっとしみちゃったかな?ごめんね・・・』
患者さん『あそこはもう行かない(泣)すごく痛かった・・麻酔もしてくれなかった・・・』
これは患者さんの感じていた『痛い』という主観に対して、先生の思う『これは痛そうではない』という客観との認識違いが原因です。
もし、この先生の対応が、『しみたりで痛いみたいだから、歯を削っても当然、患者さんは痛いと感じるよな?部分麻酔しよう!』そう認識して対応してたら、患者さんは『先生痛くなかったです、私の痛みに配慮してくれたんだ』そうなるわけですよね。
また、『痛い』と口に出して言える人間だからこそ、自分の感じている、痛いという主観を、表現して相手に伝えることができます。
『どのくらい痛い?』『すごく痛い』『10段階で何番目くらいの痛み?』『9番目くらい』『それは相当痛いよね』こんな風に、痛みの強さまで表現できるんです。
では動物の場合はどうでしょうか?
動物は『痛い』と感じてはいても、それを人間のように言葉で伝えることはできません。
そこが難しい点です。
なので、病気やケガをしたとき、『これは痛そうだ』『痛いと感じているんだろうな』という、人間側から考えた、客観的な見方が最も大事になってきます。
すみません、余談が長くなりましたが、『痛い』か『痛くない』は動物も自分自身が感じていることであって、『痛いだろう』『痛くないだろう』という客観的な部分は、人間側の捉え方で、どうにでも解釈できるということです。
つまりは、よく語られることのある、『動物は痛みに強い』このような解釈も、感じている動物に聞いたわけじゃないですから、実際は分からないわけです。
この壮大に前置きをした上で、テーマである、動物はお口の痛みに強いの?人と比べて動物はお口の痛みに強いのか?という本題です。
動物といっても、ここでは、日常診療する犬と猫に限定させてください。
何度もいいますが、痛いか痛くないかは、実際には聞けませんから分からないので、同じお口の問題で人間が痛いと感じることは、犬・猫にとってどうか?『例)平然としてるのか?狂ったように暴れるのか?元気がなくなるのか?など』
動物がとる行動を、人間の場合に置き換えて比較し、考えてみるという手法で、解釈してみます。
今回は、お口に起こる問題のなかで、人間では、歯に強い痛みを引き起こすものを例に、比較してみましょう。
『ぶつかったり硬いものを噛んで、歯が折れてしまうことで起こる、露髄(ろずい)』というものがあります。
露髄というのは、いうなれば、本来硬い歯に守られた歯の神経がむき出しの状態です。歯の神経なんて大したことないと思う方いるかもしれませんが、歯の神経のおおもとは、顔に感じる感覚を伝える神経(三叉神経;さんさしんけい)であり、脳からほど近い太い神経でもあります。そんな神経がとび出てたら・・・どうなると思いますか?
私は人間も診ますので、ここで参考のために、イメージできるよう、お伝えしておきましょう。
人間が同じ露髄した状態になると、『歯がズキズキと眠れないほど強く痛んだり』『食べたものがむき出しの神経に触れると電気が走るようにビリっと痛みます』『冷たいものなどを食べたり飲むと神経が超過敏に反応して半端じゃなくしみます(知覚過敏をもっと強くした状態)』になります。つまり『歯に強い痛みが襲い非常に苦しむことになります』
歯の神経がむき出しになると、お口のばい菌などの刺激により、まず神経が急性の炎症を起こします、このときが激痛です。
虫歯がひどくて歯がズキズキ痛くて夜も眠れないくらいしんどかったという経験がある人はいますか?いわゆるそういう状態になります。
そうなると、歯というよりも、顔面が非常に痛くなったり、強い頭痛を伴うこともあります。まさに脳に近い神経ならではともいえるでしょう。
食事すら痛みで満足にとるのが難しくなることもざらです。
運よく急性の炎症を切り抜けて、強い痛みが引いたりする場合もありますが、やがて神経が死ぬことで徐々に痛みを感じなくなります。しかし、いつ神経が死ぬかは予想できません。
想像してみてください。あなたは、不幸にも転倒してしまい、歯が折れて露髄しました。
時間とともにズキズキと脈打つ強い痛みが襲い顔をしかめてしまいます。とてもいつものように食事をとれる状況ではありません。とくに噛んで食べるようなものは神経に触れてとても噛めません、すぐ飲み込みます。食事量が減ってしまいます。夜も眠れず、落ち着きません。あまりの痛みにちょっかいを出されただけで、怒るかもしれません。
これは人間が露髄したときに起こしうる行動(患者さんから聞いたエピソードもあり)です。
さて、犬や猫といった動物ではどうでしょう。
犬や猫も、ケンカや顔をぶつけたり、硬いものを噛んで、歯が折れて露髄することがあります。
人間では、すごく痛い、あまり食べられない、眠れないといった状態なのに、果たして犬や猫は、平然としているのでしょうか?
例えば、ペットが顔をぶつけて前歯が折れてしまい、飼い主さんが確認すると、露髄していたので、心配になってある動物病院にいったら、診た先生からは『動物は痛みに強いから そのうち慣れてくるからほっといても大丈夫』という、対応をされたというケースがありました。
実は、犬や猫の場合も、露髄すると、やはり人間同様、強い痛みを感じているように思います。
それを示すように、いつもと違う、明らかにおかしい行動をとることがあります。
忌避行動(なにかを避ける・嫌がる行動)がその1つです。
露髄した犬・猫の忌避行動として、これらをよくみることがあります。
例えば人間だって痛い場所をいきなり触られたり、何かの動作をすると痛みが強くなるのは嫌ですよね?それと同じと考えてください。
ほかに『よだれを大量に垂らしている』『落ち着きがなくなる』『眠りが浅い』『活動的でなくなる』などもあり、人間でいうところの痛みのまぎらわしや、ただ我慢しているような様相をみることもあります。
ここで、ぜひイメージしてください、現実ではありえませんが、あなたがもし、その犬や猫とからだが入れ替わったら。どうでしょう?
あなたは、言葉をしゃべれません。その痛みを飼い主にも伝えられません。さぁ露髄した痛みをどうやり過ごします?いまお話した忌避行動、痛みのまぎらわし、我慢、そういった行動をとるような気がしませんか?
間違いなく、私だったらするでしょう(露髄は、すごく痛いという想像ができますので笑)
なので『平然としていることはない、ほっといて大丈夫ではないだろう』と思います。
実際、人間に行う露髄した歯の神経の処置、つまり痛みをとる処置を同じくしてあげることで、そうした忌避行動などは少なくなる、あるいは完全になくなります。
極端な例だと、露髄してからドライフードを食べなかったのに、神経の処置をしてあげた後は、ドライフードをバクバク食べるようになったということもあります。
ちなみですが、これは露髄に限ったことでもなく、お口の問題をかかえているときに忌避行動をとっていたが、お口の問題を解決後、忌避行動がなくなるケースは意外に多いと感じます。
当科で歯科治療を行ったペットの飼い主さんも、実感されてるのではないでしょうか?
以上から言えること、あくまでも私見ですが、犬や猫も、人間と同じようなお口の問題をかかえると、『同じように痛みに苦しんでいる』と考えて矛盾はないというのが実感です。
よって、これらをふまえて結論をいうなれば、『動物は人間に比べてお口の痛みに強いか?』このテーマに関して、私なりの立場から、客観的に申し上げると
『動物(犬・猫)は人間に比べてお口の痛みに強いわけでは決してない』『言葉を話せないだけで、人間と同じような痛みをしっかり感じている』
人間同様に痛みに強い子もいれば、弱い子もいるので、すべてひとくくりにすることはできませんが、基本的にはそう考えていいと、私は解釈しています。
『動物は、人間よりお口の痛みに強いから大丈夫・・』ひとくくりにそういう考え方をもてば、言葉を話せない相手に対して、動物福祉の観点からみて倫理的にも危険だと思いますし、少なくとも愛情をかけているペットに対して配慮ある対応はできないのでは?と私は強く思いますが、さて、どう感じますでしょうか?
さて、昨今では、『動物は痛みに強いわけではない、我慢しているからそう見える』いうなれば『痛みに耐えている』という考え方があります。
詳しくは長くなるので割愛しますが、ちゃんと痛みのコントロール、除痛ができれば、行動にその変化が現れるのも事実です。
今後、副院長先生の整形外科のコラムなどで語られるかもしれませんので、そちらをお読みいただけたらと思います。
最後に、『動物だから、お口の痛みに強いからほっといても大丈夫』という考えのあった方、もしおられましたら、自分がペットと同じ状況になったらどう感じるか?そういった想像をぜひ膨らましてください。そうすれば、ペットへの配慮ある考え方ができるはずです。
ペットの出すSOS(忌避行動など)を見逃さないように、日頃からよく見てあげてくださいね。
当科では、今後も人間と比べてどうか?を二刀流ならではの私見を交え、お口にまつわる様々なテーマでお伝えしていきます。
来年も何卒よろしくお願い申し上げます。
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