御世話になります。
歯科・口腔外科の江口です
今回は上記表題についてお話したいと思います。
ちなみに内容の一部は当院HPお知らせ上にあります、『#お口の問題で食欲不振(動画・コラム)』とリンクする部分もありますので、そちらもぜひご覧になってください。
まずはいつものように余談から始めましょう。
突然ですが、ご覧の方にお聞きします。『歯科(歯科クリニック)』を受診したことはありますか?
『ちょうどいま通院治療中です』『子供が虫歯のとき付き添いで行ったことがある』『昔は通院してたが今は行ってない』なかには、『受診したことは1度もないです』という方も、いらっしゃると思います。
私は当院以外では、人間の歯科クリニックで勤務医しています。例えば、その歯科クリニックに来院される患者さんたちを診ますと、『歯がしみたから』『歯が欠けたから』『歯が痛くなったから』『歯ぐきから血が出たから』『歯ぐきが腫れたから』『歯がぐらついているから』『噛むと痛いから』、だいたいは、そういった要件で、受診される方が多い印象があります。
いうなれば『要件のほとんどは歯の調子が悪いとき』です。
まぁ歯科のクリニックですから、当たり前といえば当たり前ですが(笑)
これをふまえると、『歯科の役割は歯の調子が悪いときに治してくれる場所でしょ?』と思われる方、いるのではないでしょうか?
ですが、歯の調子が悪いわけではなくても、『歯が汚れてきたからクリーニングしたい』『歯のホワイトニングしたい』『歯並びを治したい』『親知らずが生えてきたから抜きたい』、そういった要件で来院される方もいます。
もちろん地域差、患者さんの年齢などにより、受診の理由は様々ではあります。加えて、昔に比べて今は、『お口の病気が様々な体の病気を引き起こす(例えば歯周病は体のいろんな病気と関係する)』というのが、明らかになり、メディアなどでそうした情報を目にする機会が増えていることから、歯の病気における関心度は以前に増して広く浸透してきており、歯の病気を早期発見する検診、歯のメンテナンス目的など病気予防のために、とくに有事はなくとも進んで歯科を受診される意識の高い方も増えてきています。その表れとして、国策でも、『国民皆歯科検診』というものが検討されているくらいです。気になる方は『#国民皆歯科検診』で検索してみてくださいね。
実際、いくつかの体の病気が、お口の病気を治すことで予防、あるいは改善できることが、医療関係者のなかでも良く知られたことで、内科の先生や循環器の先生、整形外科の先生などと歯科で、患者さんのことについて情報共有して連携して治療にあたることも、以前に増して非常に多くなりました。(とくに有病者の方、高齢者の方のが患者さんの場合)。有名なのは、高齢者の方に多い誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)という肺炎は、お口のばい菌が原因として多いともいわれ、『口腔ケア』という、口腔環境をよくする専門的なケアを行うことで、その発症リスクが減らせることが分かっています。ほか歯周病の治療や管理で糖尿病の状態が改善すること、心臓の弁置換手術前に口腔管理を行うことで合併症のリスクが減らせることなども報告されています。
このような現状をふまえますと、近い将来、歯科クリニックは『歯の調子が悪い時にいくところ』から『お口から体の病気を改善、予防するところ』として、重要な役割を担う場所に変わるのかもしれません。
では、一方で、動物歯科はどうでしょうか?例えば、当科を受診される犬猫の飼い主さんの受診理由としては、
『口臭が強くなったから』『歯が汚れているから』『歯がぐらついているから』『歯が抜け落ちたから』『歯が折れたから』がとくに多い印象です。
なかには『歯の検診目的』で受診される方も最近増えてはいますが、決して多くはありません。
上記のように、やはり動物の場合も、人間の歯科クリニックと同じように『受診される要件のほとんどは歯の調子が悪いとき』です。(※あくまで当院の場合です)
これをふまえれば、『動物歯科の役割は歯の調子が悪い時に治してくれる場所』と思われている方も少なくないでしょう。
人ほどよく調べられているわけではありませんが、犬や猫の場合も、『お口の病気が体の病気と関係している可能性がある』ことは、報告されており、昨今さらに明らかになりつつあるように感じます。しかしいまだ認知度は低く、重要性について飼い主さん側に広く伝わっていないのが現状と感じます。
おそらくあと10年もすると、調査報告数も上がり、人間同様に『お口の病気と体の病気の因果関係がさらに明らかになる』のではないかと思います。
そうしますと、とくに動物歯科のある動物病院は、『歯の調子が悪い時にいくところ』から『体の病気を改善、予防するところ』としての役割を担う場所になるかもしれません。
人間の歯科医療と動物の歯科医療、両方にいる者として、そうした熱いトピックが出てきましたら、また、ご紹介させていただきたいと思います。
さて、余談が長くなりましたが、今後の歯科がもつ役割について、あくまでも展望ですが、お話してみました。
では、ここから本題です。
ここからは私個人が、考える『動物歯科の大事な役割』についてお話したいと思います。あくまで私見になります、ご了承ください。
余談でも話ましたが、当科の場合、犬猫の受診される多くは『歯の調子が悪いとき』です。
ちなみに歯の調子が悪くなったときに、一番困るのは、どういうときでしょうか?
調子が悪いときといっても程度がありますが、ここでは、すごく悪い時としましょう。そしてあえて歯に限定せず、広い意味でお口という表現に変えてみます。
『お口の調子がすごく悪いとき一番困るのはどういうとき』でしょう?
それは、ずばり『生きるために必要不可欠な行為をするとき』そう『食べるときです』
『生きるために必要不可欠な食事を食べるという行為』これを阻害されてしまうと、どうなってしまうでしょうか?
例えば、実際に、当科を受診したワンちゃんネコちゃんで、お口の調子がすごく悪かったケースを挙げます。
『食事を食べる量が減った』『食いつきが悪い』『ドライフードを残すようになった』という、食事が満足にとれていないケースはよくみられます。
なかには、『骨が浮き出るくらいガリガリにやせてきた』という、ほぼ食事がとれていない栄養失調状態に陥っており、命の危険もあるような重症なケースもあります。
このように、『食べるときに困って苦しんでいる』子は少なくありません。しかもそうした子に限って高齢の子が多い印象です。
この食べられないという期間が数日ならまだしも、これが、飼い主さんが動物病院に連れて行かない限り、そしてお口の問題を解決しない限り、永遠に続くとしたら、動物たちはどう感じるでしょうか?
例えばもし自分だったらと思いながら、以下の状況ぜひ想像してみてください。
『口のなかに口内炎が20個できました。痛すぎて食事が食べれない』
『大きな虫歯が8本あり、その全部の歯がズキズキ痛む、痛すぎて食事食べれない』
数日で普通の人はノックアウトするでしょう。私も3日も耐えられないと思います。
医療機関にかかれず、これが永遠に続くと思ったら、たぶん精神的におかしくなるのは必須だと考えます。
食べられないほどお口の調子が悪いとき、それは、だいたいの場合、人も動物も『お口に耐えがたい痛みがあるとき』です。
これを踏まえて、私は『動物歯科の大事な役割は以下の2つ』と考えています
1つは、『お口の痛みを除去・緩和・改善すること』
痛みの原因を取り除くこと、または原因は取り除けなくても緩和あるいは改善することは、単純に苦痛から解放されます。
日常生活に支障なく、過ごせるレベルになれば、身体的にはもちろん精神的にも良いことはいうまでもありません。
もう1つは、『栄養状態を改善すること』です。
食べられない状態を口から食べられるようにすることは非常に大事です。胃ろうを使ったり、鼻から栄養チューブを入れて胃に栄養を直接流し込む方法もありますが、口から栄養を摂取することは、唾液も出て、胃腸が動き、消化吸収や栄養吸収面からみても有利であることは知られています。薬で無理やり食欲を起こさせるという方法がありますが、自然ではありません、薬など使用せず、お口の問題を解決し、自分で食事がとれる状態に持っていくのが、歯科の役割です。
それをもって栄養状態を改善します。
では、実際、動物歯科の以上2つの役割が最も発揮される例について、御紹介しましょう。
『猫の難治性慢性口内炎』というお口の病気があります。
猫の慢性口内炎についての詳細は、歯科レポートをご覧ください。
少し説明しておくと、お口の粘膜が潰瘍という非常にただれた状態になるタイプの口内炎で、根本的な治療法はなく、歯に付着する歯垢などのばい菌に接する部位で非常に強い炎症を引き起こします。強い痛みで食事困難になり、ひどい場合は、体重減少、栄養失調を引き起こし、生活の質を著しく下げる代表的なお口の病気です。
スライド1枚目にある猫ちゃんもこの口内炎です。
写真端はこの子を寝かして、背中側から撮影していますが、横腹がゲッソリしてガリガリにやせているのが分かりますでしょうか?
これはまさに口内炎の痛みによる食事困難、栄養不良からくる体重減少の例です。本当にひどい猫ちゃんは、このようになってしまいます。
その対症療法のなかに、抜歯手術があります。現在、猫の難治性慢性口内炎で最も有効とされる治療です。抜歯術という、聞くだけで痛そうな手術だと、思うかもしれません。歯を抜かれて余計食べなくなるのではないかと思われる方もいるかと思います。
しかし実際、そうした子たちに、抜歯手術をしますと、顕著に『痛みの除去・緩和・改善』と『栄養状態の改善』効果が表れます。
手術した猫ちゃんのすべてが、100%よくなるというわけではありませんが、ほとんどの場合は、手術後、口内炎が軽快していきます。すると、『口内炎によるお口の痛みが除去・緩和・改善』され、活動的になり、見違えるようによく食べて、体重も増えてくる『栄養状態の改善』がみられます、病気になる前の状態に戻ったと喜ばれる飼い主さんもいるくらいです。
正直手術した側の私でも、『こんなに良くなるものか』と驚くこともしばしばです。この子も術後、口内炎が軽快し、よく食べるようになったとのことでした。
当科は歯を治す場所なのはもちろんなのですが、単純に歯が悪いときに来る場所だけという位置づけではなく、どちらかといえば、お口全体の問題に対して、いかにお口の痛みをなくせるか、いかに栄養状態を改善できるか、そして、いかにひどい状態を回避できるか、という点を最大限重視して診療を行っており、2つの大事な役割を担っています。
今回お伝えした『当院の動物歯科がもつ大事な2つの役割』を飼い主さんと共有していただけたら幸いです。
引き続き当院にくるワンちゃんネコちゃんのお口の健康を守っていきます
今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。
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