歯科医と獣医のダブルライセンスを保有する医師
この写真は、先日診療した、左目の下がぽっこり腫れてしまったミニチュアダックスの子です。腫れたその原因は、左上奥歯の歯周病(ししゅうびょう)でした
『そんなまさか!歯周病って歯の病気でしょ?』『歯周病って目の下が腫れちゃうの?』『めったにないことでしょ?』
そう思われる飼い主さんもいらっしゃると思います。
実はこういったケースはよくあります(特別珍しいわけでもありません)
さて、これから話すポイントを3つにまとめて、さきに伝えておきましょう
①『歯周病がひどくなると 急に顔が腫れることがある』
②『目の下が腫れていたら 上の奥歯に問題がある可能性あり』
③『もし顔が腫れてしまったときは 早めに病院へ』
これをふまえてご説明します。
まず、歯周病はそもそも、ふつうは目の下といった顔が腫れたりすることはありません
『ん?さっき、よくあるケースって言ってたよね?』と思いましたか?
ふつうはないんですよ。
ふつうじゃないことが起きてしまうから腫れてしまうんです。
この理由はこの後お話しましょう。
さて、歯周病についてざっくりお伝えしておくと、歯周病はお口のばい菌が悪さをして、歯ぐきや歯を支えている骨や靭帯(じんたい)などに炎症が起こる病気です。
進行してひどくなると、昔の言い方でいう、いわゆる歯槽膿漏(しそうのうろう)といって歯ぐきが腫れて、血が出たり化膿したりして、最後には歯を支えるものがなくなって、歯が抜け落ちてしまいます。
歯周病についての詳しい説明は、HPの歯科レポートにありますのでぜひご覧ください。
歯周病はひどくなると、歯周(ししゅう)ポケットという歯と歯ぐきの間にできる溝
が深くなり、そこにばい菌が大量にすみついて、ばい菌のすみか・たまり場になります。
お洋服のポケットを思い浮かべてください、そのポケットのなかに、汚泥ヘドロ(ばい菌だらけ)を入れてみたらどうでしょう?当たり前ですが、ポケットの中が、めちゃめちゃ臭くて汚くなりますよね?ひどい歯周ポケットのなかとは、そういうすごく汚い状態と同じなんです。
ばい菌だらけですから、ひどい歯周病の歯のまわりは、炎症が起きて腫れたり、化膿したりするのは当たり前の環境なわけです
そんなすごく汚い環境ではありますが、体の免疫力がしっかり働いているときには、免疫でばい菌を抑えるような均衡を保っているので、顔が腫れるほどひどくなることは普通あまりありません。何もしなくてもズキズキと強い痛みがでることも普通あまりありません。
しかし、ストレス、体調不良、病気などをきっかけに免疫が落ちると、この均衡が崩れて
抑えられていたばい菌が増えて活性化してくると、急激な炎症が起きてしまい、結果、腫れがひどくなり、強い痛みが現れます。
これを歯周病の急性発作(きゅうせいほっさ)といいます。
歯医者のなかでは専門用語で『P急発』とよく呼んでいます。
これがきっかけとなり、ひどいときには、お口のなかを超えて、炎症がひろがり、顔まで腫れてしまうほどに強い症状を起こしてしまうんです。
これがポイント①『歯周病がひどくなると顔が腫れることがある』です
とくに、ワンちゃんの上の奥歯である第4前臼歯(だいよんぜんきゅうし)と第1後臼歯(だいいちこうきゅうし)という2本の歯は、その頻度がとくに高い場所です。
というのも、歯と歯の間のすきまが狭く、なおかつ奥側にあるので食べ物のカスが溜まりやすく、また、飼い主さんのケアが行き届きにくい部分にあるので、歯の衛生環境がほかの歯に比べて悪くなりがちな場所なんです。結果として、歯周病の原因である歯垢(しこう)や、その歯垢が石化した歯石(しせき)がよく付着し、歯周病の好発部位になっています。。
なので、ほかの歯は歯周病がそれほどひどくないのに、この上の奥歯2本だけが、ひどい歯周病になっているケースがかなり多くみられます。
この写真の子もそうですが、この奥歯2本がひどい歯周病でした。
右下の写真をよくみていただくと分かりますが、この奥歯に体毛がからんで、なおかつ歯垢(しこう)と歯石(歯石)で覆われている状態で不衛生な状態でした。
この2本の奥歯は、目の近くに歯の根っこがあるという特徴があります。
つまりこの奥歯2本に歯周病の急性発作が起こると・・・・。
炎症が目の近くまで広がりやすいので・・・・・・。
そう、目の下が腫れてしまうんです。
目の下がもし腫れているようであれば、まず疑うべきは上の奥歯の歯周病です
悲しいかな上の奥歯の歯周病がひどいワンちゃん(とくに小型犬)が圧倒的に多いこと、急性発作を起こして、目の下が腫れて受診するワンちゃんは当院では月に3~4件はいます。という意味では珍しくないケースですので、よくあるケースなんです。
という背景がありますから
ポイント②『目の下が腫れていたら上の奥歯に問題あり』と考える必要があります。
最後にポイント③『歯が原因で顔が腫れるときは大火事と同じなので早めに病院へ』です。
ふつうは歯のまわりの炎症で済むはずが、顔が腫れるまでに至るというというのは、炎症の強さがすごく強いということを意味します。
火事でいうと、歯周病の急性発作が小火事だとすると、顔が腫れるレベルというのは大火事と同じです。ほっておくとどんどん燃え広がって、体に重大な悪影響を及ぼすこともあります。ばい菌が活性化してるわけですからね。
とくに糖尿病や病弱な場合、免疫抑制薬やステロイドを長期使用している場合などは、
そのリスクが高くなります。
間違っても顔が腫れてかわいいなんて思わないでください!
ちなみに人がこの状態になると、痛くて泣くほど辛いと言う方が多いくらい、激痛と発熱による体調不良になりますし、最悪、命にかかわるところまで発展することもあり入院加療を必要とする場合もある、実は怖い状態でもあるんです。口腔外科にいるとそういう方を実際に診ることがあります。
ということでワンちゃん、そして猫ちゃんで急に顔が腫れてしまっていたら、早めに動物病院を受診してください。
動物は大変しんどく苦痛を感じている状態です。歯科診療日にあたる木曜日の場合、基本は予約診療制ですが、この場合、急患対応と致しますので、一度当院へお電話をいただけたらと思います。
もし食欲がない場合は、すぐに受診するようにしてください。
最後にポイントをもう1度
①『歯周病がひどくなると顔が腫れることがある』
②『目の下が腫れていたら上の奥歯に問題があることがある』
③『歯が原因で顔が腫れるときは大火事と同じなので早めに病院へ』
この3つは ぜひ忘れずに覚えておいてください。
やや長くなりましたが、コラムで伝えきれない部分は当院歯科レポートで
説明していますので、ぜひチェックしてみてください。
#歯周病の急性発作・歯周病で顔が腫れることについて
レポート『抜歯の意味を知るPart.5』を参照
#歯周病について
レポート『抜歯の意味を知るPart.1~3』を参照
今後も飼い主さんにお伝えしたい内容を、随時コラムやレポート、動画でお伝えしていきます。
今後とも何卒よろしくお願い申し上げます
歯科医と獣医のダブルライセンスを保有する医師
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