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『骨造成で骨増やす』

コラムのご紹介

”歯周病などで歯が悪くなる→進行すると顎の骨が折れてしまう”とリンクしてその危険性を理解して来院される飼い主さんは多くありません。
よって、今回のコラムを読んでいただき、ただ”歯が悪い”だけの認識ではなく、折れてしまうかもしれないというリスクと、そうさせないための治療という事を理解して頂けましたら幸いです
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笠松和洋 副院長

「診断の8割は飼い主さんとの会話」をモットーに​、二次診療施設と連携し、あらゆる角度から飼い主さんやペットにとって最良の治療を目指す街の獣医さん。
2023年4月より麻布大学付属動物病院 整形外科専科研修医

筆者

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江口淳先生

歯科医と獣医のダブルライセンスを保有し、高度歯科医療を施せるスーパードクター。
最近では『2024年度 関東・東京合同地区小動物学会(群馬)』でも登壇され、益々の活躍が期待され、多方面でも注目されています。

骨造成で骨増やす

~あごの骨折リスクを減らす手段~

御世話になります、歯科・口腔外科の江口です。

今回の歯科コラムでは、とくに小型犬によくある『あごの骨折』という悲劇を回避するため、そのリスクを減らすべく、とる手段として、当科で行っている専門的加療の1つ、『骨造成:こつぞうせい』についてお話したいと思います。

本題の前に、まず、骨造成とはどういったものかについてお話しましょう。

たとえば、お口の病気が原因であごの骨が溶けてしまったり、事故やケガあるいは手術などであご骨を部分的に失ってしまうなどすると、『骨の量が減ってしまった状態・骨が痩せた状態』になることがあります。こうした場合に『骨の量を増やす方法が骨造成』です。

以前の歯科コラムでも骨造成のことを少しお話していますので、もしよければ、お知らせアーカイブスにあります、歯科コラム『#当科で行う骨造成』をぜひご覧になってくださいね。

さて、骨造成では、どうやって骨の量を増やすのでしょうか?これにはいろいろな方法があります。たとえば、骨の量が減った部分に、自分の骨自家骨:じかこつ)を移植する方法や、人工の骨や牛の骨など、自分の骨の代わりになる材料骨補填剤:こつほてんざい)を移植する方法があります。これらを単独、あるいは混ぜるなどして患部に移植し、そこに骨が作られやすい環境整備をしてあげることで、新しい骨ができてきます。すると結果として、骨の量が増えるわけです。つまり、『骨が減って痩せ細った状態のときに比べると、骨は分厚くなります

骨造成を行うことで、骨が分厚くなる』ここが今回の話のミソになりますので、ぜひ覚えておいてください。

ところで、『なんでわざわざ骨を分厚くするの?別に骨の量が減った状態でもかまわないんじゃないの?』そう思う方いるかもしれませんよね。

そもそも骨造成とは、いったいなんのために行われているのでしょうか?じつは、骨造成は、わたしたち人の歯科医療のうち、歯科インプラント治療と深く関係があります。インプラント治療とは、歯を失ったあごの骨に、人工の歯の根っこである金属性のネジ(インプラント)を植え込み、その上に被せ歯をして、自分の歯のように噛むことができるようにする治療方法の1つです。

あごの骨が減ったり、痩せた状態ですと、このインプラントを植えこむことじたいが物理的に難しいため、骨造成を行うことで、骨を増やし、骨を分厚くして、植え込みができる状態にするというわけです。つまり、骨造成は、動物医療ではなく、人の歯科医療で使われてきた方法です。

すみません、前置きが長くなりましたが、ここからが本題です。

このあご骨を増やす方法を、お口の病気であごの骨が減ってしまったワンちゃんや猫ちゃんにも、うまく使えないかなと思い、じつは数年前から、当科で実践してきました。

ちなみに、このあとお話しますが、ワンちゃん猫ちゃんに、人間のようにインプラント治療をすることが目的で、私は骨造成を行っているわけではありませんよ。どういう状況で行うことが多いかというと、とくに歯周病がひどくなりすぎて、あごの骨がひどく溶け、折れそうになってしまっているような小型犬です。さて、スライド3枚目にある左側の歯のレントゲン写真をご覧ください。

いずれも小型犬の下あごです。

あご骨の量が十分ある状態と、重度の歯周病であご骨が大幅に減った状態を比較で並べてみました。あご骨が大幅に減って薄くなった部分を矢印でさしていますが、ここがとても貧弱な部分です。これ、イメージとしては『割りばしの一部が、つまようじくらいの太さまで削られ、細く薄くなっている状態』だと想像してみてください。そうなれば、ちょっとの力でいとも簡単に割りばしは、ポキッと折れてしまいますよね。それと同じ状態です。このように病気で弱くなった骨が少しの力でも、簡単に折れてしまうことを『病的骨折』といいますが、小型犬が歯周病であごの病的骨折を起こすこと、あるいはその危険がある状態になっていることというのは、飼い主の皆さん気づいていないだけで、本当に多いんですよ(怖)。詳しくは以前の歯科コラム『#小型犬のあご折れ注意報』をご覧くださいね。

さて、あごの骨がこのように貧弱な状態になっている場合で、病的骨折のリスクを最大限減らすためには、まず、『#骨が溶ける原因を取り除き、骨がこれ以上減ってしまうことをストップさせる』ことに加え、『#骨をいち早く分厚くして強度のある状態にする』ことが、ベストではないかと私は考えています。そのための手段が、当科で行う骨造成になります。ちなみにですが、骨がお口の病気で大幅に減っていたとしても、骨の厚みが薄いというほどでなければ、病的骨折のリスクがそれほど高くないことも多いので、そういうときには骨造成を行うことはありません。というのも、骨造成をしなくても、原因をとれば、骨はある程度、再生してくるからです。ただし、自然に再生してくる骨の量は、骨の失った量が大幅なほど時間がかかり、骨造成をした場合ほど、骨が増えないこともあります。

ですので、私が骨造成を飼い主さんに強く勧めるときは、『あご骨が大幅に減ってとにかく薄くなっているとき、病的骨折のリスクがきわめて高く、差し迫った状態のとき』がほとんどです。

ではここで、骨造成の実例を1つご紹介しましょう。スライド4枚目をご覧ください。

この子はシーズーで、左下あご奥歯の重度の歯周病と、その歯周病が原因で骨の深い部分に炎症が起きる、骨髄炎という診断の上で手術をした子です。お口の写真をみていただくと分かりますが、奥歯に歯石と歯垢がひどくついて、歯本来の色がほとんどみえていません。真ん中のレントゲン写真は、この部分を撮ったものですが、御覧のとおり、あご骨が大幅にひどく溶けて薄くなった部分があります。骨が薄く骨髄炎もあったため、病的骨折のリスクも高いと判断しましたので、原因となる重度歯周病の奥歯の抜歯を行い、そのあと、骨造成処置として、この子のお口からとった骨の一部(自家骨)と人工骨を血液の再生成分と混ぜ合わせ、これらを骨の量が少ない部分に移植しました。

5枚目のスライドにあるレントゲン写真をご覧ください。

左側が術後1週間、右側が術後3ヶ月のレントゲン写真です。

術後1週間では、あご骨はまだ、黒抜けしている部分が目立ちます。これは骨がまだできていない状態です。一方、術後3ヶ月経つと、黒抜けが白くなってほとんど目立ちません。これはそこに骨ができたということになります。比較すると一目瞭然ですよね。

この子は無事、術後も骨折をすることもなく、元気食欲も上がり、経過良好で治癒しました。

このように、骨造成は、良い方向に進めばいいのですが、お口の中はばい菌だらけですので、移植した部分にばい菌が感染すると悪さして骨の炎症を起こすことがあり、逆効果につながることもあります。ですので、まず術後フォローがすごく大事です。そして、骨造成の知識があり、お口の中の外科手術に長けていなければ、行うべきではないと私は思います。実際に他の病院さんで、骨の移植処置を行っていた子が、おそらく感染を起こし、十分なフォローもされずにいた結果、骨のなかの病気を誘発して、手をつけられない状態になって当科を受診され、飼い主さんも、診療した私も非常に悲しい思いをしたことがあります。こうしたことがないように、骨造成後は定期診察を行い、万が一有事が起きても対応できるよう継続的なフォローを行っています。

あごの病的骨折はなってしまうと本当に悲惨です、リスクを最大限減らすと言ってきましたが、最も大事なことは、骨造成するというよりも、骨がひどく減らないうちに、まず病的骨折の原因となる芽をいち早く摘むこと、つまり早期発見、早期治療です。歯科検診であごのレントゲン写真をとっていると、早期発見にもつながります。なので、ぜひ、小型犬はとくに、定期的な歯科検診は受けていただくといいですよ。

お口の機能のかなめ、あごを最大限守りきることは当科の使命の1つだと考えていますので、骨造成のような専門的加療を通して、今後も当科にくるワンちゃん猫ちゃんのお口を守っていきます。

今回もまた、長くなってしまいすみませんでした。

今後も引き続き何卒よろしくお願い申し上げます。

筆者

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江口淳先生

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