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猫の慢性口内炎 コラム編①
~あなたの猫ちゃん大丈夫?~

コラムのご紹介

猫ちゃんの口内炎は日常診療で頻繁に遭遇する疾患で、猫ちゃんの口のトラブルで来院する原因でも一番多いと言っても過言ではないかもしれません。
一般的に一定期間持続するステロイド製剤の注射をされることが多いですが、糖尿病など他疾患を発生・悪化させてしまうリスクがあります。
また、高齢猫ちゃんで口内炎を発症している子では、他の疾患が発生した時に口の痛みでごはんが食べられないことが致命的になってしまう場合もあります。
今回の江口先生のコラムをご一読いただき、ご自身の猫ちゃんのお口をチェックするようにしてみてください。
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笠松和洋 副院長

「診断の8割は飼い主さんとの会話」をモットーに​、二次診療施設と連携し、あらゆる角度から飼い主さんやペットにとって最良の治療を目指す街の獣医さん。
2023年4月より麻布大学付属動物病院 整形外科専科研修医

筆者

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江口淳先生

歯科医と獣医のダブルライセンスを保有し、高度歯科医療を施せるスーパードクター。
最近では『2023年度関東・東京合同地区小動物獣医学会』でも登壇され、益々の活躍が期待され、多方面でも注目されています。

『猫の慢性口内炎 コラム編①~あなたの猫ちゃん大丈夫?~

御世話になります

歯科・口腔外科の江口です

今回は、これまでにも、たびたび話題にあげています、『猫の慢性口内炎』について、このコラムでは、私が猫の飼い主さんへお伝えしたい内容をまとめてみました。内容は大きく分けて、コラム編①、②の2部構成にしています。

まずコラム編①は、『猫慢性口内炎って、どんな病気?』『どんな猫ちゃんに多い?』『口内炎の猫ちゃんにはどんな症状がある?』といった内容に簡単に触れます。

続くコラム編②では、実際に、慢性口内炎の猫ちゃんが、当科を受診された際に、どう治療をすすめていくのか?つまり『治療方針はどうするか?』そして『当科で行っている専門的加療』といった内容に触れてお話したいと思います。いずれのコラムも、当科での診療経験に基づき、この病気に対する私なりの見解や解釈が含まれておりますので、ご留意くださいね。ちなみに、スライドに載せているお口の写真はすべて、当科で実際に診療した猫ちゃんたちになります。病気を理解する助けになりますので、どうぞ参考までに御覧ください。

では、ここからが、コラム編①になります。まず、『猫慢性口内炎ってどんな病気?』についてお伝えします。

ふつうの治療では治らず、自然治癒しない、長引く口内炎を、私は『慢性口内炎』と呼んでいますが、そのなかで、通称『猫の口内炎』として、広く認知されている慢性口内炎があります。その正式病名は、猫慢性歯肉口内炎FCGS:eline hronic ingivotomatitis)といいます。『舌や頬の内側、歯ぐき、のど周り、唇など、お口のなかのいたるところが炎症を起こし、ただれてしまう、原因不明の猫の難病』です。FCGSは原因が、いまだに解明されていないために、『原因に対する治療法、つまり根本的な治療法がいまだにありません』。以下文中の、慢性口内炎は、FCGSのことだと思ってください。

一般にイメージされる人の口内炎と違い、猫の慢性口内炎は『お口の粘膜が大やけどしたのと同じくらい、ケタ違いにひどい口内炎です』。この口内炎は、お口に1個だけということはなく、だいたいは、複数できて、しかも、広範囲にわたることがほとんどです。参考までに、歯ぐきに炎症を起こす歯周病と、同じく歯ぐきに炎症を起こす慢性口内炎の写真を比較で載せてみました、御覧いただければ分かりますが、粘膜の赤くただれた部分が、どちらがよりひどいか、一目瞭然だと思います。ほか冒頭の写真も御覧ください。お口が真っ赤っかですよね。これ全部口内炎です。大やけどというニュアンスが伝わりますでしょうか?とにかく痛々しいの一言です。ですから、私は、猫の慢性口内炎は、『お口が大やけどする病気』だと考えています。

 

さて、これだけひどい口内炎ですが、発症する年齢は関係なく、1歳未満や、2歳など、若い子でも発症することがあります。

猫慢性口内炎の非常に厄介なところは、『生活の質:QOLQuality Of Life)』を著しく下げてしまう点です。QOLを下げる理由としては、『お口の痛み』です。

お口の痛みでストレスがたまる・お口の痛みで気分が落ち着かない・お口の痛みで眠れない・お口の痛みで食べたくても満足に食事がとれない』、といったQOLが下がったままの生活が、発症してから、ほぼ毎日続くわけです。いつまでも治らないので、終わりはありません。それは、苦痛で生きるということです。これ、いうなれば、『生き地獄』です。結局、そんな状態が、長期間続くと、食事をほとんど受けつけなくなり、体重もみるみる減って、栄養失調になり、重症化して、いのちの危機に瀕してしまう猫ちゃんもいます。若い頃に発症すれば、この生き地獄で苦しむ期間も、それだけ長いということです。余談ですが、海外では、こうしたことを理由に、安楽死を希望する飼い主さんすらいるそうです。それだけ、猫の慢性口内炎は深刻な病気だと、飼い主さんは認識しておいたほうがいい思います。

それだけ猫ちゃんのQOLを下げ、苦しめてしまう深刻な病気ですが、根本治療はできないというだけで、じつは、全く治療のすべがないわけではありません。『有効とされる治療』をすることで、QOLを改善させ場合により治せることもありますただし、ケースバイケースで、必ずではありません)。ですから、慢性口内炎だからといって、決してあきらめないことが肝心です。詳しくはコラム編②でお話します。

そんな慢性口内炎ですが、どうやら『免疫が関係した複雑な病気である可能性』が、近年、明らかになりつつあります。免疫が関係する病気といえば、自己免疫疾患という、自分の免疫が、自分の体を攻撃してしまう病気があります。通常、免疫は、ばい菌やウイルス、異物などが体に侵入してきたときに、それらを退治して掃除するために、炎症を起こします。炎症とはいうなれば、免疫が起こす火事です。ここからは、『火事=炎症』と解釈して読んでみてください。この火事を起こすことで、体をあえて熱くして免疫が働きやすい状況にしたり、免疫の細胞が、侵入者のいる場所に集まりやすくして、退治しやすくしているわけです。つまり免疫が、体に火事を起こすのは、ふつう、正当な理由があり、そのほとんどは生体の防御反応のためです。その防御反応のための火事も、激しくなったり、しょっちゅう起きていては、からだにもよくありません。なんせ火事ですから、体を痛めることにもつながります。だから炎症止めのお薬などでは、そのひどい火事を抑えたりすることで、体の負担を減らしているわけです。ちなみに、免疫が、生体防御反応と関係なく、どういう理由か不明で、勝手に火事を起こして、あげく、自分の体を痛めてしまうような病気が、自己免疫疾患の炎症です。猫の慢性口内炎も、この自己免疫疾患の可能性が考えられています。この病気は、お口のばい菌に対して、寛容な部分もある免疫が『なにかがきっかけ』で、免疫異常をきたして、ばい菌を毛嫌いする免疫過敏状態になり、その結果、とにかく、ばい菌に対して、免疫の細胞が粘膜に激しい火事(炎症)を起こしまくる、アレルギーの1種だと私は考えています。その理由は、『ばい菌を減らす治療をすると、口内炎の症状が和らぐことが経験上多い』からです。いうなれば、この病気は、免疫過敏の口腔細菌アレルギーなのかもしれません。

ではここで、慢性口内炎は『どんな猫ちゃんに多い?』についてです。

慢性口内炎を発症した猫ちゃんは、『他猫との接触機会がある(これまでにあった)子に多』と言われています。たしかに、私の実感としても、これまで口内炎で診療してきた子は、多頭飼育されている子、元ノラだった保護猫の子、半ノラの子、ノラの子、また親猫にそういった背景がある子が正直、9割方といっていいほどでした。

なぜそういった猫ちゃんに多いのか、詳しい理由は分かっていませんが、他猫ちゃんとの接触機会がある環境にいる(いた)猫ちゃんは、猫ちゃん同士で伝播しているウイルスにさらされる(さらされた)機会が多いこと、他猫ちゃんがいる環境で受けるストレスなどが、発症に関係する要因、つまり、きっかけになっている可能性が示唆されています。たしかに人間でも、大勢がいる環境下に置かれると、ストレスが強くかかったり、免疫系を狂わすウイルスに感染すると、免疫のバランスが崩れる場合がありますので、発症のきっかけになっている可能性は十分あると考えます。

最後に『口内炎の猫ちゃんにはどんな症状がある?』ですが、すみません、長くなってしまったので、この内容は、スライドの11枚目にまとめました。ぜひそちらをご覧になってください。症状には、お口の粘膜がただれるだけでなく、それに伴う、行動の変化と、体の変化があります。猫ちゃんのお口のなかが見れない場合には、参考になるかもしれません。ぜひチェックしていただき、もしこれらがいくつも当てはまったら、注意が必要ですので、ご心配でしたら、当科へどうぞお越しください。

コラム編①はここまでです。

続く、コラム編②では当科の治療方針と、有効とされる専門的加療のお話をします。もしよければ御覧になってください。

引き続き何卒よろしくお願い申し上げます。

筆者

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江口淳先生

歯科医と獣医のダブルライセンスを保有し、高度歯科医療を施せるスーパードクター。
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