ヒトと同じ治療をペットに応用するというヒトの歯科にも精通する江口先生ならではの切り口で、今回は我々にとっても馴染みのある銀歯を使用した治療のご紹介になります。
歯科医と獣医のダブルライセンスを保有し、高度歯科医療を施せるスーパードクター。
御世話になります。当院歯科・口腔外科の江口です
今回は当科で行う歯科治療の1つ、歯が割れたり折れたりした場合に行う『歯の修復』についてご紹介したいと思います。
いつものように人間の歯科治療のお話を余談に加えて、お伝えしましょう。
まず冒頭の写真をご覧ください。これ、ワンちゃんの上奥歯に被せている銀歯です。
『えっ!犬に銀歯をいれるの?』そう驚かれる飼い主さんも多いかと思います。
実際、動物医療のなかでは珍しい治療の1つだと思います。できる施設が全国的にみても限られることは、間違いないでしょう。
動物医療では珍しく、できる施設が限られている一方で、私たち人間では、結構普通に、歯科医院で行われている歯科治療だったりします。
歯の治療を経験されたことがある飼い主さんのなかには、『自分も奥歯が銀歯だよ』『私は前歯がセラミックよ』『ワシは金歯が入っとる』といった、歯に被せものをしている方も、いらっしゃるのではないでしょうか。
ちょっといつものように歯医者目線で、余談をさせてください。
わたしたち人間の場合、治療で、歯をそうした、被せ歯にせざるを得ないケースというのは、多くの場合、虫歯が原因であることが多いです。
虫歯は、歯が溶けてしまう病気ですので、進行すると、歯がどんどん脆くなってしまいます。つまり歯がボロボロに壊れます。
一般的な虫歯治療は、『虫歯を削って詰めものをする』と思われる方がほとんどだと思いますが、ことに、虫歯がひどすぎて、歯のほとんどが崩壊して、歯のかたちが大幅に失われている場合には、詰め物ができないことがあります。
そうしたケースでは、虫歯を削ったとしても、残された部分の歯は、健康な歯に比べると強度が相当に弱くなってしまいますので、そのままにしておけば、食事をするなど歯に少しの力が加わっただけで、弱って残された歯が折れて、だめになる場合もあります。
また、歯が崩壊して歯の高さが足りなくなったりすると、歯本来の機能である、物を噛むということ自体が、できなくなってしまうため、歯としての機能も失われてしまうわけです。
ですので、残された歯を守るために強度を上げる必要性と、またしっかり物を噛めるように、機能を回復させる必要性、つまり、その両方を満たせるように失われた歯のかたちを修復する必要があるんです。
そこで使う修復の材料が、金属だったり、セラミックだったり、高強度プラスチックのレジンだったりするわけです。
これらの材料は、『硬さ・耐久性』、『見た目』、『なじみやすさ』、『汚れのつきにくさ』など物性に加え、『材料の値段』というように総合的にどの材料で修復するのが最適かを考えながら、患者さんと相談の上、決めることがあります。そして自費か保険治療かによっても選べる材料に違いがあるんです。
ご存知ない方が多数だと思いますが、健康保険の治療は、国が『保険治療だと、この修復材料しか使っちゃだめよ』といった決まりがあります。
じつは、良い修復材料ほど、お金がかかります。
例えば、セラミックの被せ歯、白く輝き艶があり、有名人の方も入れている方多いですよね。
『先生、私、有名人みたいに白いセラミックの歯の被せ物が良い!見た目が良いし!健康保険治療でお願いします!』という場合
これは残念ですが、保険治療じゃ無理なんですよ。
国でセラミック材料は保険治療では認められてませんから、セラミックの被せ物は保険適応外つまり自費治療(全額自己負担)になります。
つまり、『この治療、健康保険じゃ無理よ、一円もこちらからは出せませんからね』『自費ならご自由にどうぞ』そういうことなんです。
今後セラミックの被せ歯を考えている方はご注意くださいね、決して安くはありませんのでご注意を。
すみません話が脱線しすぎました・・(汗)
さて、犬の被せ歯ですが、人間のように虫歯が原因ということは少なく、どちらかといえば硬いものを強く噛んだり、歯をぶつけたとき、に歯を割ってしまった場合や、普段からケージをかじる癖があって、歯が削れていって薄くなってしまった場合に行われる治療が多いです。
とくに歯を割ってしまった場合というのは、中にある歯の神経(歯髄;しずい)がむき出し(露髄:ろずい)あるいは、時間が経って歯の神経が死んで、ばい菌が歯の神経のお部屋に入って感染を起こしている(感染根管:かんせんこんかん)ケースも多く、神経の処置といった根管治療(こんかんちりょう)を行うことも少なくありません。
※根管治療などのお話は今度詳報しますので、しばしお待ちくださいね
歯が割れるなどした場合、虫歯ではなくても、やはり歯の強度は落ちてしまいます。割れた歯で食事を続ければ、当然、強度が弱った歯がもっと砕けたりすることもあるわけです。ことに犬の場合、咬む力も相当ですし、物をつかむときには私たちのように手をつかうかわりにお口を使いますので、歯にかかる負担も相当であることが予想されます。
小型犬ならまだしも、これが大型犬であったら、咬む力も非常に大きいですから、歯にかかる負担もそれ相応、言わずもがなですよね。
ちなみに、この銀歯を入れている写真のワンちゃんは、歯が折れたことが原因で、歯の神経が死に、ばい菌が神経のお部屋に入ってきたことで、化膿して、そこからお顔の目の下に膿の出口があいてしまった大型犬の子です。
根管治療をしたあと、耐久性、強度の面を考え、入歯の金属にも使われるコバルトクロム合金という硬い金属でできた銀歯を装着しました。
2019年に銀歯を入れました(じつは左右奥歯が同じ状態でしたので左右の上奥歯に銀歯が入ってます)。
残念ながら体調不良のため先日亡くなられたとのことですが、2022年まで左右の銀歯がとれずにそのまま機能していました。
2019年~2022年まで大型犬で3年間、壊れたり取れたりすることなく、さながら鎧のように、歯を守り続けたわけです。
飼い主さんによる歯のメンテナンスもあっての賜物ともいえるでしょう。
実は当院ではじめて銀歯をいれたワンちゃんだったことも印象的です。
さて被せ歯にする場合、修復材料を金属にするか、金属以外にするかで選べます。
金属の場合は、薄くても強度があるため、被せ歯も薄くできるため、被せ歯を入れるために歯を形成する際に、歯を削る量が少なくてすみます。しかし見た目が金属なので無機質な感じは否めません。
一方、金属以外の場合、薄いと強度が劣るため、被せ歯を厚くしないといけません、そのため、金属と違い、歯を形成する際に歯を削る量が多くなります。しかし見た目を歯の色に近づけることでき、人工物か自然か分からないくらいのクオリティになることがあります。
私は、安価だろうと高価だろうと、見た目がよかろうと悪かろうと、すぐ割れてしまう修復材料では意味がありませんし、長くお口のなかにいて歯を守ってくれることが一番だと考えていますので、耐久性があり、歯の寿命を長くしてくれる、つまり予後が良いと思えるものを、これまでの歯医者の経験、当院での実績をふまえ、その子のお口の状態や、年齢、癖(よくものを噛む癖、リードを噛む癖など)、体格などから、諸費用面も含めて、飼い主さんのご希望も伺いながらご提案するようにしています。
費用面では、やはりそれなりにしてしまう治療がこの被せ歯による修復治療です。
動物医療は全額自費という側面がありますので、そうした現況もふまえて、それでも、ご希望される飼い主さんにおかれましては遠慮なく当科担当医までお問い合わせくださいね。
最後になりますが、当院で行う、歯科治療の被せ物などは、すべて、神奈川県にあります歯科技工所『コアデンタルラボ 横浜』さんに特別に製作していただいております。本来は、人間の入れ歯や被せ物、ブリッジなど、たいへん質の高いものを製作されているラボさんです。
その技工士さんたちのハイクオリティな技術なくしては、当院での被せ物といった歯科治療は成り立たないといっても過言ではないでしょう。
それくらい尊敬できる素晴らしい技工所さんです。
気になる方は、ぜひ上記技工所さんのHPなどをご覧になってくださいね。
『自分が受けたいと思える歯科治療を自分のワンちゃんにも』当院歯科・口腔外科のコンセプトの1つとして掲げておりますので、専門性を通じて今後も、人間の歯科医療を応用した様々な動物歯科治療について発信してまいります。
今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。
歯科医と獣医のダブルライセンスを保有し、高度歯科医療を施せるスーパードクター。
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