コラム「舌がんも前触れかも」のご紹介
一般臨床獣医師である我々が口の中に隆起しているでき物がある場合、頭を悩ませるものの一つに舌の隆起物があります。見た目だけで良性なのか悪性なのかを判断することは難しく、逆に見た目だけで判断することで万が一の見落としの可能性もあるからです。今回のコラムでは、舌ガンだけではなく、一見関係ないように思える、それらを誘発する可能性がある口の中の環境や歯石についてのお話もあります。
「診断の8割は飼い主さんとの会話」をモットーに、二次診療施設と連携し、あらゆる角度から飼い主さんやペットにとって最良の治療を目指す街の獣医さん。
2023年4月より麻布大学付属動物病院 整形外科専科研修医
御世話になります
当院歯科・口腔外科の江口です。
今回は、口のなかにできる悪性腫瘍、がんのお話を少ししたいと思います。
とくに、舌にできるがんである『舌がん』について、今回は、取り上げていきたいと思います。
せっかくなので、ペットの犬猫たちだけではなく、私たち人にも役立つ情報を盛り込んでみました。
『舌がんの予防法は?』『舌がんの早期発見には?』そんな内容も交えて、人も動物も診療しているWライセンスならではの、独自の視点から、飼い主さんにうまくお伝えできたらと思います。
また、いつものように余談からはじめましょう。
まず、わたしたち人間のお話ですが、日本において『舌がん』は口のなかにできる口腔がんのなかで、約55%を占める最も多い口腔がんといわれてい
ます。数年前にTVに出ている方が、舌がんの闘病を公表しておられたこともあり、おそらく記憶に新しい飼い主さんもいらっしゃるのではないでし
ょうか?
舌がんは、実は若い人もなりますが、シニアの60~70代に最も多いとされており、女性に比べ男性に多いとされています。
舌がんの明らかな原因はいまだ不明とされていますが、発症を高めるリスク因子はいくつかあるとされています。
飲酒(アルコール)、喫煙(タバコ)はリスクを高める主因として有名です。
ほかに『虫歯などにより歯が欠けて尖っている状態』・『歯が内側に傾いている生えている状態』・『入れ歯や被せ物が合わないなど不良な状態』、などがあることで、舌を動かす際によく舌をかんでしまうことがある、舌に擦れてしまうことがある、舌に引っかかって傷つけてしまうことがある、といった慢性的な刺激を受けることが発症リスクになるといわれています。
ほか、不衛生なお口といった場合も、お口のばい菌に大量に慢性的にさらされるているため、リスクになるとされています。
実際、私も舌がんの患者さんを総合病院で診療したことがありますが、たばこ・飲酒うんぬんというより、『歯が欠けてそこが舌によく当たるんです』つまり慢性的な刺激が舌に当たることがあって、発がんしてしまったと思われる患者さんが多い印象でした。
なので、以上をふまえて、ご覧になられている飼い主の皆さん、こんな心当たりはありませんか?
『よく舌をかんじゃう』『被せ歯のふちがよく舌にひっかかる』『入れ歯のふちが舌に擦れて痛い』『歯が欠けたまま放置しているけど舌にひっかかっることがある』
注意してくださいね。それ、舌がんのリスクに確実になりますので、ぜひ歯科医院にかかられて、そうした問題を解決されるように、相談されることを強くおすすめいたします。お酒・たばこを除いてそういう歯科的な問題を解決することが、舌がんの予防につながると考えますので、ぜひ頭の片隅に入れていただけたらと思います。
さて、舌がんの初期は、舌の表面が少し白っぽかったり、少し隆起している程度など変化に乏しいこともあります。加えて、痛みや出血がない場合もあるため、自覚症状に乏しいこともあり、患者さんが気にされることがなければ、病院に来ることもなく、結果、発見が遅れることもあります。
なので、舌に痛みがある、舌が動かしにくい、といった症状がでる頃には、進行していることもままあります。
ですので、早期発見のため、覚えておいてほしいポイントとして、『舌の色が一部白っぽい』『舌の部分が膨らんでいる』『舌の一部に赤みがかかっている』『口内炎のような症状が、少なくとも2週間続く』場合は、舌がんの前触れ、あるいは、舌がんの初期の場合がありますので、できるだけ、お近くの歯科医院や耳鼻咽喉科を受診して必ずみてもらうようにしてくださいね。また、地域の歯科医師会で口腔がん検診を行っていることもありますし、口腔外科学会などのホームページで口腔がんセルフチェックの項目がありますので、活用されると良いかと思います。後は自分の口のなかを見る習慣をつけましょう。
舌がんは、早くみつかれば、後遺症も少なく助かる病気ですが、ステージが進むと手術で舌のほとんどを失うことになり、健康な場合に比べて生活の質が下がります、場合により命を落としますので、ぜひ気にとめといていただけたら幸いです。
さて、余談が過ぎましたが、ここで動物のお話に戻りましょう。
犬や猫の舌がんは、通常高齢で多いとされております、7歳以上に多いとの報告があるようです。
原因については、いまだ不明とのことです。発症リスクは、人間のように飲酒や喫煙をしないというのはありますが、おそらく人間同様に、
なにかしらの慢性刺激が舌に持続的に起こることがリスクになるのではと、私見では考えています。
根拠としては、少し難しい話ですが、一般に、いつも傷つけられる場所というのは、細胞が修復されたり傷つけられたりする場所であり、実はすごく不安定な場所でもあります。たとえばホクロはいじりすぎて傷をつけたり刺激を加えすぎると、がん化してホクロのがん『メラノーマ』になるというという話もあるくらい、いつも同じ場所に刺激を与えすぎることは。ときに、『がん化』という、危険な状態を呼び起こすこともあるわけです。
つまり、これは人間の舌がんリスクになる、慢性刺激と関係した話です。
さて、写真の子は、高齢のワンちゃんで、歯周病治療で当科を受診し、処置前のお口の検査のため寝かせた状態でお口を開けている状態です。
矢印に、右の舌の下部分にボコボコと隆起して、まわりに比べて少し白っぽくなった病変があります。
この部分は少し触ると血が出やすい状態であり、いわゆる『舌の潰瘍病変』という状態です。
こうした所見は、舌がんの前触れの場合がありますので、見た目では厳密に本当はどんな病気か判断することは難しいことがあります。
ちなみにこの病変は舌の下側面にありますよね、なぜこんなものができてしまったと思いますか?
実は下奥歯の内側に、歯石がびっしりついていて、それが軽石のようにザラザラしていたため、舌を動かすたびに、舌の側面に擦れるような慢性刺激が続いたため、舌が傷ついて、こんな潰瘍になってしまったんです。
つまり、原因は歯石だったわけです。
ちなみにこの病変は切除して病理検査に回しましたが、幸い、潰瘍性口内炎との診断で、舌のがんではありませんでした。
ですが、これにもし気づかずに、このまま放置していたら、潰瘍の状態で、常に刺激を受け続け、もしかしたらいつか、この場所が『がん化』していた可能性は十分にあります。つまり、こうした病変は『舌がんの予備軍、言い方によっては前触れになります』ので、お口をみた際に、こうした病変を発見しましたら、一度当科へご相談ください。
舌の病変は、初期ですとワンちゃんネコちゃんの場合、起きている際に目視で判断することは難しく、歯周病の治療前など、麻酔中の口腔内検査で見つかることも少なくありません。
『水の飲み方がおかしい』『食べ方がおかしい』『グルーミングをしない』など、『ふだんは舌を動かして行う動作に違和感が出ているサイン』があれば、お口含め、舌の病変を疑うてがかりになりますので、もしそうした症状があれば、早めに当科を受診していただけたらと思います。
最後に、犬猫の舌がんについて早期発見と予防法ですが、早期発見には、上記のサイン症状を早くみつけることに加え、普段からペットのお口をみる習慣をつけていただくのが確実です。白っぽくないか?赤くなってないか?隆起してないか?血がついてないか?このあたりをみていただけたらと思います。
予防法は、やはり慢性的な刺激を除去する必要があるので、歯を磨き、お口を衛生的に保ち、歯石がつかないようにすること、歯石がついている場合は専門的な歯石除去を行うこと、また、歯が折れて尖っていたり、歯のかみ合わせの問題で舌を傷つける場合は、歯の処置をすることが必要です。
飼い主さんも、大切なペットも、舌がんにならないようぜひ、今回の話を参考に、お口の健康に気をつけていただくきっかけになれば幸いです。
最後に、当科では、犬猫の口腔がん治療(主に外科手術)に人間の歯科口腔外科で培った医療技術を応用して行っております。
できるだけ口腔の機能を損なわないよう、配慮し、動物医療では、一般的ではない顔面再建外科も含めて、今後の獣医口腔外科の発展に寄与できればと思います。
今後とも引き続き何卒よろしくお願い申し上げます。
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