「診断の8割は飼い主さんとの会話」をモットーに、二次診療施設と連携し、あらゆる角度から飼い主さんやペットにとって最良の治療を目指す街の獣医さん。
2023年4月より麻布大学付属動物病院 整形外科専科研修医
御世話になります、歯科・口腔外科の江口です。
今回は、当科でペットの歯科処置や口腔外科手術を受けるべきか、検討をされている飼い主さん、あるいはこれから受ける予定の飼い主さんに向けてのお話として、『歯科処置や口腔外科手術をうける際のリスク』について、少しかいつまんで、お伝えしたいと思います。
『どんなリスクがあるの?』『用心するためにも参考に聞いておきたい』といった方もいらっしゃるかと思います。おそらく、この話題は、飼い主さんの関心ごと(心配ごと)のなかで、かなりの割合を占めているのではないでしょうか?
さて、このコラムを読んでいただくにあたり、いくつか注意点があります。
まず、1点目。このコラムでお伝えする内容は、『わたくし一個人の見解や解釈が含まれ、私見となります』、そのため、ほかの先生と見解や解釈が異なることもありますので、十分にご留意ください。つぎに2点目。このコラムで、『リスクすべてを網羅してお伝えするというのは、不可能』です。その理由としては、実際にリスクというのは、その動物ごと、その状況ごとに違い、細かく挙げればきりがないからです。なので、このコラムという限られたなかで、私が飼い主さんに普段よくお話する要点にしぼることにしました。くれぐれも今回のお話が、すべてではない点をご留意ください。最後に3点目。このコラムの意義は、『話は聞いたけど、いまいち、リスクについて、よく理解できていない』とくに、そのような飼い主さんに対して、このコラムを読んでいただくことで、理解を手助けできるような、そんな意味あいを込めております。そして、『あくまでも当科を受診予定、あるいはすでに受診された飼い主さんに向けての内容』です。上記以外の飼い主さんにおかれましては、『笠松動物病院の歯科・口腔外科ではこんな感じなのね』くらいの、あくまで参考程度にとどめておいてくださいね。
以上をふまえて、本題の前に少しだけ、余談をさせてください。ところで、みなさんは、まず『リスク』という文字をみたときに、どう感じますか?『とにかく危ない、危険なこと』と解釈され、非常に強い警戒感や不安感を抱く方も多いかと思います。リスクには、『~のおそれがある』という意味合いがあるとされます。一般的にリスクというと、おそらく、この意味で使用されることが多いかと考えます。例えば、病気にかかるリスクは病気にかかるおそれがある、ケガするリスクはケガするおそれがある、などですね。これはいうなれば、『心配ごとがある』とも表現できると考えます。なので、私は、リスクのことを、『心配ごと』『懸念すること』という意味合いで解釈をして、使用しています。なので、いまからお話するリスクのことは、危ないことというより、『心配ごと、懸念のこと』だと思って、ぜひ読んでみてください。そうすると少しこのお話の理解が深まるかもしれません。
心配ごとだと考えれば、ご理解いただけると思いますが、『リスクとは、絶対に起こることではありません、あくまでも可能性』だと考えてくださいね。ですので、過剰に心配する必要はありませんが、軽視することでもありません。念頭に入れておくべき心構えだと思ってください。
では本題です。まず、歯科処置・口腔外科手術のリスク(心配ごと・懸念すること)には、大きく分けると以下★があると考えます。
★『全身麻酔によるリスク』
★『処置や手術の侵襲に伴うリスク』
★『術後のリスク』
まず、全身麻酔によるリスクです。
人と違い、基本的に、動物の歯科処置や口腔外科手術は、程度が軽くても、全身麻酔あるいは鎮静下で行います。その理由はまた今度の機会にお話しましょう。さて、全身麻酔によるリスクは、歯科処置に限らず、基本的に全身麻酔をするすべての手術で共通します。私は麻酔の専門医ではありませんので、麻酔についてリスクの詳しい話はしません。全身麻酔のリスクについては今度、副院長先生がコラムで詳しく触れるかもしれません。なので、今回は、あくまでも当科で歯科処置や口腔外科手術をする際に、飼い主さんによくお話する麻酔リスクの要点についてとします。
いまから、麻酔リスクの要点を話しますが、『全身麻酔が危険なものだと過剰に恐れる必要はありません』。現在、一般に動物病院で全身麻酔に使うお薬は、安全性が昔に比べはるかに高く、通常、健康ですと、麻酔薬による事故発生率もきわめて低いものです。もし、全身麻酔が大変危険なものだとしたら、麻酔を使用する動物の手術事故が多いはずですし、手術をする動物病院じたいが少ないはずですよね。実際には、そうした報告はありません。ただし、場合により、軽視できない念頭におくべき懸念はあります。
まず、全身麻酔は、強制的に体を眠らせる方法であるため、少なからず『体への負担がかかるもの』です。歯科処置や口腔外科手術の規模によっては、時間がかかることもあり、そうすると麻酔時間も長くなりますので、それに応じて体への負担も大きくなります。そして、持病があり、内臓の状態が悪ければ、『麻酔が効きすぎたり』、内臓への負担が余計に大きくなり、『内臓の状態がさらに悪化する場合があります。』また、高齢な子では、持病がある子も多く、持病によっては『持病が悪化する場合があります』。また、高齢では、体の調節機能が若い頃にくらべて、低下しているため、上記のリスクは『高齢になるほど若い頃に比べて高くなります。』実際はケースバイケースで、もう少し細かく話をしていますが、かいつまむとこんな感じでしょうか。なので、全身麻酔にあたっては、安全のために、これらのリスクを可及的に低くする必要があり、そのためには、その子の『全身状態がきわめて大事』になります。一般に『全身状態が悪いと、上記のような麻酔リスクは高くなる』ので、細かな全身状態の評価にあたっては、当院の場合、普段から総合的な診療に長けておられる院長先生や副院長先生、心臓の病気をもつ子にあたっては専門的に見上先生に対診させていただいています。結果、場合により、先生方に加療していただき、状態が改善できれば、リスクを下げられることもあります。ですが、リスクはゼロにできませんし、その子の状態によりリスクが高いまま変わらないこともあります。最終的には、この麻酔リスクについて、飼い主さんと相談の上、十分にご承知おきいただき、かつ、強い希望があるときに限り、処置や口腔外科手術を行っています。現状で、とても麻酔をかけられる全身状態ではないと判断した場合は、いくら飼い主さんが望んだとしても、最悪の場合、手術により命を落とすこともありえますので、処置ができないことがあります。ぜひこれらは、念頭に置いておいてください。
つぎに、②処置や手術の侵襲に伴うリスクです。
これは処置や手術によって、『体に加わる負担・体へのダメージによるリスク』と考えてください。これは、麻酔によるものとまた別です。
一般的な歯科処置、例えば、『スケーリングなどの歯周病の処置』、『歯の神経の処置』『歯の修復処置』などは、これまでの経験上、私見ですが、体にかかる負担・ダメージというものは、それほどないといった印象です。一方で、抜歯手術、口腔がんなど腫瘍の手術、あごの骨折手術や、骨髄炎の手術、口と鼻のなかが病的につながる口腔鼻腔瘻の手術、などの『口腔外科手術は、体へのダメージが歯科処置より大きい』です。一般にその手術の規模が大きいほど、ダメージは大きくなります。例えば代表的な口腔外科の手術である、抜歯で説明します。歯周病末期でプラプラに動く歯を1本ポンと抜くのは抜歯のなかでも容易です、体にダメージが加わりますが、その程度としては小さいです。かたや、根っこが長く太く骨に埋まりこんで動かないようなガッチリした犬歯などの歯を抜くような場合には、抜歯のなかでも決して容易ではなく、複雑です。結果、加わるダメージは程度としては、大きくなります。例えば、下の親知らずを抜いた経験がある方がいるかと思いますが、抜かれるときに歯ぐきを切られたり骨を削られたりと、かなり、しんどくありませんでしたか?ダメージの大きな抜歯手術とは、このように、人間で親知らずを抜くぐらいに匹敵するものと、私は考えています。抜歯では、抜く本数が多いほど、抜くことが容易ではない難抜歯のものほど、ダメージは大きくなります。ダメージが大きくなるほど、全身状態にも影響が及びます。なので、『全身状態が悪ければ、手術の侵襲によりそれを悪化させるというリスクがある』わけです。麻酔リスクと手術侵襲に伴うリスクについては、必ず、全身状態を考慮した上で、十分に検討し、飼い主さんと十分にご相談する必要性があります。ちなみに、猫慢性口内炎の対症療法として、奥歯全部あるいは前歯全部といった多数歯の抜歯術を行うことがありますが、あれはダメージが非常に大きい口腔外科手術の1つです。ごはんも食べれずやせ細っているような、全身状態が不良で口内炎が重症化した子に対して、飼い主さんの強い希望がある際に、リスクが高いなかで行うこともありますが、基本的に重症化している子に行うことを、個人的には非常にためらいます。それは、ダメージにより全身状態がさらに悪化する懸念があるからです。できれば少しでもコンディションを上げた状態で行うことを強く推奨する手術の1つになります。このように、手術による体への負担・ダメージを負うリスクについても、念頭に置いておいてくださいね。
最後に、③術後のリスクです。
これは手術後に起こる可能性があるリスクです。手術というのは一般に、全身麻酔と手術侵襲もあり、体への負担だけでなく、精神的なストレスも加わります。とくに口のなかを手術処置するような、歯科処置・口腔外科手術では、口のなかという、動物たちが、自分でいじれない箇所に対して、強い違和感を与えてしまいます。例えば、抜歯後に痛み止めを使って、痛みをコントロールできていたとしても、そうした違和感やストレスが強ければ、全身状態が悪くなくても、術後に元気がなくなったり、食欲不振になったり、怒りっぽくなったり、お腹を下してしまったりすることもあります。経験上は、あまりそうしたことは起きない印象ですが、術後のリスクとして、そういうこともありますので、飼い主さんが知っておくと良いかもしれません。あとは、重症の歯周病で、下あご奥歯や下あごの犬歯の抜歯手術をした、あごの骨が薄く細くなった小型犬の場合には、術後にあごをぶつけたり、顔を床にこすりつけるなどすると、『あごが骨折してしまうリスク』があります。ですので、当科では、養生のため、しばらくの期間エリザベスカラーといった顔をいじらないように保護をしていただいたり、術後一定期間は、行動を制限していただくことで、可及的にリスクを下げるようにしております。
ほかに術後に患部が感染するリスクだったり、傷が開くリスクだったりと、術後リスクも病気や手術内容ごとに細かくあげればキリがないため、ここでは、よくお伝えする内容について、かいつまんでお伝えしてみました。
さて、かいつまんだとはいえ、大変長くなってしまい、すみません。いかがでしたでしょうか?歯科処置・口腔外科手術にあたってのリスクつまり心配ごと、懸念について、要点をなんとなくご理解いただけましたでしょうか?最後になりますが、これらのリスクはゼロにはできません、そして、なんのリスクもなしに歯科処置・口腔外科手術をすることはまずできないといってもいいと考えます。そして、さきほども言いましたが、リスクについて過剰な心配をする必要はありません。リスクとは心配ごと、あくまで可能性です、軽視はせず念頭にいれておくべきものです。とはいえ、とくにハイリスクとされるものに対しては、やはり、ある程度の覚悟も必要となります。こうしたリスクを知ることは、飼い主さんの心構えにもつながると思いますので、『全身麻酔によるリスク』『処置や手術の侵襲に伴うリスク』『術後のリスク』これらの要点については、ぜひ念頭に入れていただいた上で、さらに、『メリット(処置や手術で得られる効果)とデメリット(リスク)』を自分の尺度で天秤にかけてみていただき、歯科処置・口腔外科手術を受けるべきか否か、ご検討いただけますと幸いです。ご不明な点は直接、どうぞ私まで、お問合せください。
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