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~当科の受診をご検討中の県外遠方の飼い主さんへ~

筆者

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江口淳先生

歯科医と獣医のダブルライセンスを保有し、高度歯科医療を施せるスーパードクター。
最近では『2023年度関東・東京合同地区小動物獣医学会』でも登壇され、益々の活躍が期待され、多方面でも注目されています。

~当科の受診をご検討中の県外遠方の飼い主さんへ~

御世話になります。歯科・口腔外科の江口です。

ここ最近、山梨県外のかなり遠方の飼い主さんからも、お口の健康問題に対するご相談の問い合わせをいただくことや、セカンドオピニオン希望が目立つようになりました。なかには、道中4時間もかけて、受診にいらした飼い主さんもいました。そこまで頼りにしていただけるとは、当科開設当初からは考えてもみませんでしたので、本当に恐縮であると同時に嬉しく思います。そのご期待に、十分添えていればよいのですが。

とはいえ、県外遠方から、何時間もかけて当科にいらしていただくのは、やはり大変です。私ですら、神奈川県の横浜の端から当院まで通勤するのにだいたい片道2時間30分かけて、往復5時間ですから、もう慣れているとはいえ、とくに日帰りですと、体がしんどいときもあります(笑)。

そこで、今回は、こうした県外遠方から、当科を受診しようかご検討中の飼い主さんに向けまして、受診にさしあたり、少しアナウンスしたいことがあります。ご考慮いただきたい点がありますので、どうか、こちらをお目通しのほどよろしくお願い致します。

ところで、こうした県外遠方の飼い主さんにも、当科を知っていただいている状況をちょっと不思議に思っていました。

私は学会発表以外であまり表舞台に立つこともありませんし、当科で対外的なSNS発信はほぼしておらず、細々とこのHP上で、歯科コラムのお話を載せさせていただいている程度の情報発信しかしていません。なので、歯科コラムが県外遠方の飼い主さんの目にとまる機会がたまたまあり、それが興味関心をもたれるきっかけになっているのかもしれませんし、あとは単純にWライセンスが珍しいから、たまたま興味をもっていただいたというのもあるかもしれません。

これは余談ですが、そうした状況が関係しているのか、最近、馬の抜歯をしてほしいとのご依頼をいただくこともありました(驚)。ちなみに私がこれまで抜歯手術をしたことがあるのは『』『』『』のみですので、さすがに馬は経験がありません。ただ、抜歯方法は、ヒトも動物も多少の違いこそあれ、基本は同じですので、おそらくは可能であると考えています。ただ、馬は歯も大きいし、骨も硬いのですから、抜歯はまぁ大変だと思いますが(笑)。それでも構わないとのお返事をいただいたので、折をみて抜歯を行うことになりました。ちなみに馬の麻酔はこちらでかけれないので、馬の獣医さんが麻酔などサポートしてくださるとのことでした。当科、というか私個人としては、『人間の歯医者』であると同時に、犬猫に限定せず、『動物全般の歯医者』でありたいというスタンスですので、このように、馬に限らず、たとえば動物園の動物、水族館の海獣などの歯を含めお口の病気に関しましても、これまでの経験が役立てたらと思っていますので、イレギュラーではありますが、もし、上記のような動物の歯科診療のご依頼もいただければ、私個人の出張診療のようにして、可能な範囲でお受けできる場合もありますので、一度、当科にご相談いただけたら幸いです。

話が脱線してすみません、さて、話を戻しますと、冒頭のような県外遠方の飼い主さん方と、これまでお話するなかで肌感覚として実感したのは、『ペットのお口の問題で困っている飼い主さんが県外でも予想以上に多く、そして、そうした飼い主さんがなんとかしたいと思ってはいても、歯科・口腔外科をある程度の水準で診療できる動物病院さんは、県外でも本当に非常に限られて困っている』ということでした。

なぜこうした状況になっているのか、これは、あくまで私の見解ですが、現在、日本で獣医を養成する獣医大学では、歯科・口腔外科を学ぶ機会はたいへん少なく、ほぼマイナー扱いというのは、以前歯科コラムで少しお話したかもしれません。結果的に、それほど歯科分野に興味を持たれない先生もいるのが、現状かと思います。確かに歯科で扱う器材などは多種にわたり、細々した処置も多く、本気で取り組もうとするには、非常にとっつきにくい分野だと思います。もちろん、歯科の重要性に気づいて、卒業後に一生懸命に勉強され、注力されている先生もたくさんいますが、獣医全体としては非常に限られているというところでしょうか。なので、もとをたどれば、獣医の養成大学で歯科教育が不十分であることが、おそらく、こうした原因の1つになっていると私は考えています。結果、そのしわ寄せが飼い主さんにきてしまっているのではないでしょうか。なので、日本の獣医大学は、もう少し獣医歯科教育にテコ入れしたほうがいいのかもしれないと強く思う、今日この頃です。

さて、前置きが長くなりましたが、県外遠方の飼い主さんに向けて、当科受診にさしあたり、ご考慮いただきたい点とは、以下★3点になります。

★①『当科では、歯科処置・口腔外科手術を初診日と同日に行うことは、原則的には行っていません』

ただし、その日の予約状況や、その子のお口の状態、体の健康状態、飼い主さんの事情などをふまえて、こちらの判断で可とすることもあります。)

基本的に歯科処置・口腔外科手術は、緊急性のあるものを除き、予定を組んで行う、待機的な処置・手術になります。

初診時では、『その子のお口はどんな状態か?』『全身状態はどうか?』『持病はあるか?あるなら持病の状態はいまどうか?持病で飲んでいる薬はどうか?』『画像検査はレントゲンだけで済む状態か?CTも必要か?』など、いろんな情報をふまえて、処置や手術にあたり必ず、それらを総合評価します。歯科処置・口腔外科手術は、原則、全身麻酔下で行うので、もし初診時に、お口以外の健康問題(たとえば心臓病)がはじめてわかったとき、麻酔手術に大きく影響してしまう場合もあるため、まず、その問題について調べてみないと、万が一にも、麻酔手術で健康問題が悪化する懸念もあります。そういった点で初診と同日の処置・手術は、場合によりリスクが高く、安全性という点からみると、緊急性のない限り、決しておススメできません。

麻酔リスクや手術リスクを下げるのは、やはり、ペットの安全にあたり第一優先ですから、そのためにも、基本的に計画をたてて行う、待機的な予定手術を原則しておりますので、どうかご理解のほどよろしくお願い申し上げます。

★②『長時間の移動は、動物に大きなストレスになります、その子の健康状態を優先して、ご無理はせず、現状で受診できる状態か否か、十分な検討をされてみてください』

とくに受診する子の『全身状態が悪い場合』や『超高齢の場合』には、受診されるまでの数時間の移動が大きなストレスになり、健康状態をさらに悪化させる懸念(リスク)があります。まず、その子の現状の健康状態を第一優先に考えていただき、移動にかかる時間を十分考慮した上で、くれぐれもご無理はなさらないでください。お住まいの地域によっては、当科より移動時間が短くてすむ、歯科専門動物病院さん、歯科に注力されている動物病院さんもあるかと思いますので、そちらもぜひご検討いただけたら幸いです。それでも当科を受診したいと希望される飼い主さんは、私が在院している水曜か、隔週の木曜日に、まず一度ご相談いただけたらと思います。

★③『規模の大きな口腔外科手術をご希望の場合、術後のフォロー(再診)に来れそうかどうか、ご確認ください

とくに、口腔がんなどお口の腫瘍の手術、あごの骨折手術、ネコの慢性口内炎に対する多数歯の抜歯手術などが、規模の比較的大きな口腔外科手術となります。このような手術をしたあと、術後の状態が概ね良好で、まず心配ない状態、つまり安定期と判断するまでは、一定期間、必ず当科で再診していただき、フォロー(経過観察)を行います。とくに規模の大きな口腔外科手術後というのは、手術後の傷が治るまで時間がかかったり、痛みが続いたり、傷が開いてお口のばい菌が感染を起こしたり、お口の機能障害が出るなど、有事が起こることもあります。つまり、『手術してすぐ、はい終わり、もう心配ないから来ないでいいよ』というわけに、なかなかいかないものです。とりわけ、口腔がんなどの腫瘍は、術後の定期フォローが超重要であり、術後再発する可能性も十分想定されるので、経過観察中に異変が起きた時に、早く気づくことができます。ですので、当科では、術者として責任をもって、最後まで、フォローアップさせていただいています。単純に私が心配症というのもありますが(笑)。そういったわけで、『遠方すぎる、家庭内事情で再診が難しい』『全身状態が悪いので再診が難しい』といった、当科で一定期間のフォローができない事情になりますと、規模の大きな口腔外科手術をするのは、大変申し訳ないのですが、状況にもよりますが、原則難しいと考えていただけたらと思います。もし、悩まれている方は、受診にさしあたり、私が在院している日に一度ご相談をいただけますと幸いです。

すみません、長くなりましたが、以上がご考慮いただきたい点になります。基本的には、ペットの健康のため、安全第一のため、といった理由ですので、何卒ご理解をいただけますと幸甚です。

今後も、県内にかかわらず、こうした県外遠方で、ペットのお口の問題で悩まれ困っている飼い主さんの一助にもなれるよう、当科で努めて参りますので、引き続き、よろしくお願い申し上げます。

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