『おじさんが痰をきるような短い咳をしてたら鼻の病気が原因かも・・・』
御世話になります、歯科・口腔外科の江口です。
さて、今回のコラムのお題をみて、まず、『は??』と思った方、ほとんどではないでしょうか。
『おじさん?咳?鼻?いやいや意味不明・・・』『歯とまったく関係ない話じゃないの』『歯の先生がなんでそんな話するの?』まぁそう思うのは当然です。
なんでこんな話を、私がするのか、のちほど分かりますので、ぜひ最後まで、読み進めてみてくださいね。
ちなみに、今回の内容は、私の日常の診療経験に基づき気づいたことをのせており、私見が含まれますので、おそらく一般的ではありません。
腑に落ちた部分だけ、どうぞ汲み取っていただけたら幸いです。
さて、本題の前に、まずは余談をさせてください。
あまり知られていないかもしれませんが、当科では、ワンちゃんや猫ちゃんの、歯などお口に関係する病気以外に、『鼻のなかの病気も治療しています』。
主にその対象になるのが、『慢性鼻炎』や『慢性副鼻腔炎(俗にいう蓄膿症)』です。
歯科・口腔外科が専門なのに、鼻炎や副鼻腔炎も診療してるのは、どうしてでしょうか?
この詳細は過去の歯科コラム、
にも説明してますので、ぜひご覧になってください。
まず背景として、当科を受診するワンちゃんは、小型犬とくに高齢の子が多く、歯周病が重症化していることが珍しくありません。そうした子たちは、上あごの歯周病が原因で、鼻と口を隔てる骨に穴があき、口と鼻につながるトンネル『口腔鼻腔ろう:こうくうびくうろう』ができてしまい、口のばい菌が、そのトンネルを通して、鼻に悪さをして、結果、慢性鼻炎を起こしているケースが圧倒的に多くみられます。いわゆる歯の病気が原因で鼻炎になってしまう、『歯性鼻炎:しせいびえん』という状態です。
にわかには、信じられないかもしれませんが、この1年間に当科を受診したうちの100頭以上の小型犬が、重度の歯周病が原因で歯性鼻炎を起こしてました。私は週1~2日しか当院に在院していませんが、予約受診で処置数や診察数も限られる状況下で、ほぼ毎週、歯性鼻炎の子がいる状況です。これをふまえて、この数は非常に恐ろしいと感じます。おそらく歯周病からくる歯性鼻炎を患った小型犬の子たちは、見逃されたり、気づかれないだけで、県内にだけでも、その倍以上いると私は、推測してます。こうした歯性鼻炎の場合は、歯の処置と併行して、鼻腔外科処置を同時に行い、鼻症状の改善も行うため、歯科・口腔外科の専門分野になります。加えて、ワンちゃん猫ちゃんの、歯が原因ではない難治性鼻炎や副鼻腔炎の場合でも、当科の手術方法(経口的鼻腔外科手術)で軽快することが、この数年でわかってきましたので、飼い主さん希望があれば、これらにおいても当科で診療し、鼻腔外科として、専門的加療を行っているというわけです。
さて余談が長くなりましたが、ここからが、本題です。こうした経緯で、鼻炎や副鼻腔炎のワンちゃん猫ちゃんを、日常的にみていますと、気づく点として、くしゃみや鼻汁の増加、色のついた鼻汁、粘り気のある鼻汁、鼻を床にこすりつける行為などの、鼻症状が出ていることが多いです。
そして、それに加えて、鼻の症状と別に、よくあると気づいたのが、痰を切るときにするような、『カッ』という『短い咳』の症状です。
これは勝手な私のイメージですので、伝わらなかったらすみません(笑)。よく、おじさん?おじいさん?が痰をきるときに『カッ』と、いう短い咳をすることありませんか?そんなイメージの短い咳です。
ワンちゃん猫ちゃんが、なぜ?こんな咳をするのか?大変気になるところですが、これが、不思議なことに、『鼻炎や副鼻腔炎による鼻症状が改善すると、この咳が軽快、あるいはなくなる』ことが分かってきました。咳といったら、それこそ、気管支炎や喘息、肺炎などが有名ですが、この咳はそれとは、また違うタイプです。そこで、鼻症状があると、人間でも同じようなことが起こるのか、比較してみたところ、どうやら、人間の場合、この短い咳は、鼻炎や副鼻腔炎と関係があるようです。
たとえば、誰しもが1度は、風邪ひいたときに、鼻水が増えたり、ねばっこくなって、のどの奥まで鼻水が垂れてきた経験あるのではないでしょうか?このとき、のどの奥の鼻水を出そうとして、痰をきるように『カッ、ペッ』とした短い咳払いをすることもあったのではないでしょうか?こういう、のどの奥に鼻汁が垂れてくる状態を『後鼻漏:こうびろう』と呼び、鼻炎とくに慢性副鼻腔炎(蓄膿症)が原因でよく起きるそうです。
ということは、もしかしたら、鼻炎や慢性副鼻腔炎になっている犬猫も、ヒトと同じで、後鼻漏になっているのかもしれません。これは、動物に聞けないので、確かめるすべはありませんが、鼻炎や副鼻腔炎の改善と同時に、この咳の軽快が犬猫でも起こるということは、私的にその可能性が高いと考えています。
さて、鼻炎ならまだしも、ワンちゃん猫ちゃんの咳がもし、副鼻腔炎のサインだったとしたら・・・要注意です。副鼻腔炎は決して甘くみてはいけません。
副鼻腔炎は、人間だと耳鼻科の先生がご専門です。余談になりますが、じつは私、今夏前に風邪をこじらせ、急性の副鼻腔炎を経験しました。頭痛、鼻づまり、においが全く感じない、ねばっこい鼻汁、後鼻漏、大量の痰でかなり苦しみました。なにが辛かったといえば、頭痛と、においがゼロの1週間です。耳鼻科の先生にお世話になり、鼻通りをよくする処置をしていただいた後に、こんなに楽になるなんて・・としみじみ思った次第です。副鼻腔炎で苦しむ動物たちの気持ちが少しわかった気がしました。
ところで、人間の場合、歯科医が治療に関与する副鼻腔炎が、じつはあります、それが『歯性上顎洞炎:しせいじょうがくどうえん』という副鼻腔炎です。これは上あご奥歯の虫歯、歯周病によって、上顎洞という副鼻腔にばいきんが入ってくることで起こる、歯性の副鼻腔炎です。原因は歯なので、この治療は歯科医、あるいは、耳鼻科医と歯科医の共同で行われます。上奥歯がうずく、腫れる、歯がぐらつく、そして、副鼻腔炎の症状もあったら、歯医者さんでぜひ調べてもらってください。CT検査があると、ほぼ分かりますよ。
さて、ワンちゃん猫ちゃんの話に戻しましょう、慢性副鼻腔炎(蓄膿症)は放っておくのは、決してよろしくありません。
慢性副鼻腔炎による鼻づまりがあまりにもひどくなると、今度は鼻呼吸がまともにできなくなり、口呼吸をする頻度が増えてきます。それが原因で、寝れなくなる子もいるほどです。端からみても明らかに苦しそうと思うことも少なくありません。さらに、ばい菌が悪さして増悪すると、副鼻腔に膿がたまってきて、おでこや眉間の間、目まで腫れてくることがあり、また、それらのばい菌汁により、咳がひどくなり、気管支炎や、本当に深刻なケースでは肺炎になることもあります。だいたいそうしたケースは、漫然と抗生物質を年単位で使い続けて、耐性菌ができ抗生物質が効かなくなった、高齢のワンちゃん猫ちゃんに多い印象です。ですので、抗生物質は安易に長期間使うものでは決してありません。もしすべての抗生物質が、悪さする耐性菌に使えないと、肺炎では完全に詰みますので、ぜひ覚えておきましょう。
ということで、慢性副鼻腔炎では、抗生物質で長期ひっぱらない、そうさせないのがベストだと、私は考えています。
使える抗生物質の選択肢は残しておきながら、鼻環境を改善させ、鼻呼吸ができるようにし、増悪を防ぐ、その手段として、手術という選択肢があります。
1例として、経口的な鼻腔外科手術で慢性副鼻腔炎が軽快した猫ちゃんのケースをあげます。9枚目のスライドをご覧ください。この子は、数年前から副鼻腔炎があり、薬でも改善しないとして当科を受診しました。右鼻に鼻つまり、濁った鼻汁がでて、咳症状もあり、お薬で改善が見込めなかったため、飼い主さん合意の上、右側のみの経口的鼻腔外科手術を行いました。結果、術後1ヶ月も経過すると、鼻呼吸と咳症状の改善、鼻汁もでなくなり軽快しました、術後3ヶ月の写真が右側です。
あまり、このような、副鼻腔炎に対する鼻腔外科手術という手術じたいが、一般的ではないようですが、鼻のなかの構造が、慢性の炎症で変形しているケースもあるため、物理的に鼻環境を整える処置として、非常に有利だと私は考えています。当科では、一般的な手術法ではなく、口のなかから手術するので、傷の治りも早く、顔を傷つけない方法で行います。ただ、手術したからといって100%治るわけではありませんが、鼻通りがよくなり、においもかげて、鼻呼吸しやすくなるだけで、QOLは術前より改善した子が、正直ほとんどです。また、増悪による肺炎を防ぐという意味でも、手術する価値はあると考えますが、麻酔リスクや手術リスクも伴うため、飼い主さんと、よく話をして本当に希望のある方にしか、基本的に勧めていませんのでご留意ください。
今回も話が長くなりすみません。
ワンちゃん、猫ちゃんで、『#カッという短い咳』『#鼻の症状』この#が当てはまった場合は、鼻炎や副鼻腔炎(歯性も含む)があるかもしれませんので、ぜひ当科を受診してみてくださいね。
とくに小型犬で上記#の場合は、歯周病が原因の歯性鼻炎をまずは、疑ってみましょう。
今後とも引き続き何卒よろしくお願い申し上げます。
ご来院の前に必ずご連絡ください。ご対応出来ない場合もございます。
『健康診断』、『歯科』、『手術』の場合のみ「診療予約」を行っております。
↓ 受付は、初めての方でも当日ご来院の際に受付で、もしくはWEBにて「受付」の予約が可能です。↓
〒409-3866 山梨県中巨摩郡昭和町西条5167
TEL:055-275-5566
診療時間:午前10:00 – 12:00 午後15:00 – 19:30
土曜:午後は18:00までとなります。
休診日:日曜・祝日
Copyright©2023 kasamatsu-vetclinic.com 笠松動物病院 All Rights Reserved.
Created by kaibutsu.org