歯を抜くのはかわいそう。高齢だし歯を抜くのはかわいそう。飼い主さんからこのような言葉を聞くことはよくありますが、歯を抜かないことがもっとかわいそうな結果になってしまうことが多く、高齢になってそのような必要が出てしまう前に定期的な歯のケアや検診が重要なのです。今回の江口先生のコラムは、歯を抜くのはかわいそうと思っている飼い主さんにこそ見て頂きたいコラムです。
「診断の8割は飼い主さんとの会話」をモットーに、二次診療施設と連携し、あらゆる角度から飼い主さんやペットにとって最良の治療を目指す街の獣医さん。
2023年4月より麻布大学付属動物病院 整形外科専科研修医
『歯がなくなると歯周病はなくなる?』
お世話になります、歯科・口腔外科の江口です。
今回はこんな表題についてお話ししたいと思います。これは犬や猫といったペットだけでなく、わたしたち人間にも、おおむね共通するお話ですので、ぜひご自身の歯についても、関心を寄せていただくきっかけになっていただければ幸いです。
さて、表題をみて、『えっ!なにそれ!?どういうこと?』と思った方もいるかと思います。
今回のテーマにある大前提はこれ。『歯があるから歯周病になる、歯がなければ歯周病はなくなる』
さて、これまでホームページにある歯科コラムや、動画、歯科レポートで説明していますが、『歯周病』というものがどういう病気かを知っていると、この内容の理解が深まりますので、ぜひそちらも御覧になってください。
一応、歯周病について、ざっくり説明しておきますと、歯周病とはその名前のとおり、『歯の周りの病気』です。実際には歯のまわりにある構造(歯周組織:ししゅうそしき)に対して、歯垢(しこう・デンタルプラーク)にいるばい菌が、炎症を起こす病気です。
歯のまわりとは?
歯ぐき(歯肉:しにく)、歯が植わっている骨(歯槽骨:しそうこつ)、歯を支えているじん帯(歯根膜:しこんまく)、歯の根っこをおおうセメント質がこれに相当します。
炎症により、歯ぐきですと、腫れたり、膿んだりします。骨やじん帯、セメント質は溶けたり壊れてしまうわけです。
歯垢(しこう)についてもふれておきます。『歯あか』『歯くそ』などと呼ぶこともあるかと思いますが、私たち歯科医は、歯垢、プラークと呼んでいます。
この歯垢は歯の表面にくっつく、ネトネトでヌルヌルしたものです。
その実態は、お口にいるばい菌たちの集合住宅みたいなものであり、菌の数から、ウンコ並みのすさまじい汚さであると
されています。これが炎症を起こし、感染源となる憎き敵だと思ってください。
歯が生えた時点で歯垢は、歯にくっつくことができるので、歯が生えた時点で、歯周病のリスクにさらされることになります。
さて、『歯にくっつく歯垢のばい菌が起こす、歯のまわりの炎症が歯周病』これがミソです。
ということはつまり、『ばい菌がいる歯垢がなければ、炎症の原因はなくなる、つまり歯周病はなくなる』ということになります。
『なんだ、じゃあ歯垢をゼロにすればいいんだ、ばい菌がなくなればいいんでしょ~簡単じゃん、先生』と思いましたか?
理想をいえばそうなんですよ。
でもね、それは、残念ですが、不可能です。
どういうことかというと、歯垢を全くゼロにする、それはつまり、お口を無菌状態にすることと同じですから、いくら抗生物質を使おうが、うがい薬を使おうが、歯みがきを細かく数十回しようが、お口にいるばい菌を減らすことはできても、無菌にはできません。
動物もわたしたち人間も、腸内に細菌がいるように、すさまじい数のお口の細菌(ばい菌)がいて、それが共生してるわけです。だから歯周病はある意味、お口にばい菌がいる限り、そこに歯があるかぎり、ばい菌は歯に歯垢をつくりますから
、逃れられない運命みたいなものだと思ってください。これはもう、しょうがないことです。
ただ、ここで重要なことをお伝えすると、お口を無菌にできなくても、ばい菌の数は減らせるということです。
それは、歯垢はゼロにできなくても、歯垢は減らすことはできるということ。
つまりは、歯垢を減らせれば、ばい菌も減る、そうすれば、歯周病予防にもつながるよ、というわけですよ。
ですから、よくテレビの歯ブラシCMで『プラークコントロール』ってありますよね。
これは『歯垢:(プラーク)の管理:(コントロール)』のことですから、つまり、自分で歯磨きをして歯垢を減らしましょう。歯磨きでとれない歯垢がつきやすい絶好の場所である歯石や、歯ブラシが届きにくい歯周ポケットのなかは、歯医者さんによる専門的なケアで、キレイにして、歯ならびにお口を衛生的に保つことによって、歯周病の予防や改善をはかれるということです。まさに『逃れられないなら、立ち向かおう』ですね。
ここで重要なポイントです!
いまのこのお話はあくまで、まだ歯周病のコントロールで、治る見込みあるいは改善する見込みのある歯についてのお話だと
思ってくださいね。つまり、歯があるメリットがまだ十分にあり、ものを噛む歯としての機能が残っているもの限っている話です。
その一方で、『歯周病が重度かつ末期の歯』かつ『治る見込みのない予後不良の歯』かつ『機能としてゼロつまり、もう噛めない歯』かつ『歯の問題を超える様々なトラブルを起こす、汚染源になっている歯』、そういった歯があります。
これは、ペットならびに私たちに強い苦痛を与える状態の歯であり、そういった歯は、残念ながら、役目を果たした歯ということになりますので、抜歯適応の歯、つまり抜歯しなければ状態の改善を見込めないものとみなします。
そういう歯に対して、『歯がもうプラプラだから、自然に抜けるまで放っておいていいよ』という問題を軽視する動物病院の先生や、『こんな状態だけど歯を抜くのもかわいそうだから、抜きたくない』と感情論により、これから起きてくる問題あるいは、もう既に起きている問題で苦痛のサインを出しているペットに対して、現実を直視できていない方がおります。
HPの歯科レポートにある『抜歯の意味を知るPart.1~7』にそういった歯が起こす問題など説明していますので、ぜひ、このコラムのあと、御覧になってください。とても歯周病末期の歯を放っておこうという考えにはならないはずです。
歯が抜けるあるいは、歯を抜くと、その歯にこれまでついていた歯垢や、歯周ポケットがなくなります。
すると、歯がなければ、歯垢がくっつく場所がなくなり、歯が抜けたあとに穴があった場所は、歯ぐきで埋まってしまうので、汚染される場所がなくなるため、歯周病で起きていた炎症も次第に引いていきます。
つまり歯がなくなった場所は、歯垢がつかないことになる。結果、ばい菌がすめなくなるので、歯周病から解放されるわけです。
『歯がなければ歯周病はなくなる』とは、こういうことです。
ここで、言っておかなければならない超重要なポイントがあります。
歯が抜けるまで待ってたら抜けた~、これで歯周病に悩まないやった~と思う方、歯周病で歯が抜けたとこインプラントにしようかなぁと思っている方、それは非常に甘いです。
歯が抜けてあるいは抜いて歯周病がなくなったとしても、『歯周病で壊された骨やじん帯、下がった歯ぐきは、もう元には戻らないですよ。』再生医療をすれば少しは戻りますが、お金も時間もかかりますが、元どおりにはならないです。
小型犬ですと、壊れて薄くなった、あごの骨は絶えずあごの骨折のリスクにさらされます。
そんなボロボロに壊れ果てるまで歯周病を放っておく、あるいは抜歯すべき歯を残すことがどれほどにシビアな状況を生み出すか、まずはよくよく、ご理解しておいたほうが良いと思います。
ちなみに、自分自身が同じ状況でしたら、迷わず歯科医で、抜いてもらいます。
さいごになりますが、今回の表題でお伝えしたかったのは
『歯周病は歯がなくなればなくなるけども、歯周病末期で抜けるまで放置したことにより、失われた部分は戻ってきませんよ』『だから抜けるまで放置するのはダメだよ』
『抜歯適応の抜くべき歯は抜いて早いところ歯周病による害からくる苦痛から解放してあげましょうね』
この3点です。
そうならないためにも、歯周病のケアならびに、歯科検診を積極的に利用していただき、歯周病の早期発見にぜひ努めてみてください。
引き続きよろしくお願い申し上げます。
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