御世話になります。当院歯科・口腔外科の江口です
冒頭の写真は、ある2歳のワンちゃんのお口の写真です。この子は本来あるべき『下あごの犬歯が左右ともに生えていません』でした。
このように、歯が抜けたわけでも、抜歯したわけでもないのに、あるべき歯がない。つまり『歯が生えてこない』ことがあります。
『歯が生えてこない・・・そんなことあるの?』『歯が生えてこないと、なにかいけないことがあるの?』そんな疑問をお持ちの飼い主さんもいるかと思います。
そこで今回は、『歯が生えてこない・・?なんで?』という疑問に、Wライセンスならではの、人と動物の歯科医という目線でお応えしていきましょう。
ちょっと慣れない難しいお話が続きますので、『ふ~ん、へぇ~そうなんだ』くらいのテンションで読んでいただけたら幸いです。
歯が生えてこない原因にはいくつかありますが、まず、歯はどうやって生えてくるのかについて少し掘り下げてみます。
さて、飼い主の皆さん、イヌやネコは、私たち人間のように、基本的に、『歯は一生のうちに1度生え変わる』というのはご存知でしょうか?
つまり『こどもの歯:乳歯』が抜け落ちて『大人の歯:永久歯』に生え変わりがおきます。
厳密にいうと、場所によって、乳歯が生えずに永久歯だけが生えてくるものもありますが(上下の奥歯)、乳歯が生えている場所は、基本的に例外なく永久歯へと生え変わりが起きます。
まず『生え変わりがおきる』というのは、すごく大事なポイントになります。いままさに子犬・子猫を迎えている飼い主さんはもちろん、成長したワンちゃん、ネコちゃんがいる飼い主さんも、ぜひ覚えておきましょう。
では、ここで乳歯、永久歯について少しご説明したいと思います。
『乳歯:にゅうし』とは?
一生のうちで最初に生える歯のことで、おかあさんのお乳から離乳したあと、自分で食事をするときに使う最初の歯、いわば『こどもの歯』です。
かたちは一般に、永久歯に似ていますが、サイズは永久歯より小さく、細く、硬さもそれほど強くないのが乳歯の特徴です。
基本的に、乳歯の数は人間だと20本、イヌで28本、ネコで26本あります。
乳歯は永久歯が生えるまでの『つなぎ』になる歯ですが、実はすごく大事な役割があります。それについてはまた今度お話しましょう。
『永久歯:えいきゅうし』とは?
こどもからおとなに成長する過程で、一般に乳歯のあとに生えてくる歯のことです。
いわば『大人の歯』です。
永久歯というように、基本抜け落ちたりしない限りは、一生つまり永久にお口にあり続ける歯です。乳歯に比べてサイズも大きく、太く、硬いのが永久歯の特徴です。
基本的に、永久歯の数は人間だと32本(親知らずを含めると)、イヌで42本、ネコで30本あります。
人間やネコに比べて、イヌだけやたらと歯が多いんです。
さて、基本的に、イヌやネコも、私たち人間のように『歯は生まれてまもない新生児期には生えていません』赤ちゃんは歯が全くない状態で生まれてきます。
余談ですが、人間の場合、お乳を飲むのに歯があると、邪魔になります。実際、生まれたての新生児期に歯が生えてしまうケースがありますが、そうすると、歯がお乳を飲む際に、舌にあたるなどして口内炎を起こし、哺乳の妨げになることがあり、赤ちゃんの栄養摂取に影響を与えてしまう場合があるんです。
詳細は省きますが、もし気になる方は『#先天性歯(せんてんせいし)・#リガフェーデ病・#赤ちゃん』で検索してみてくださいね。
お母さんのお乳をまだ飲んでいる、乳歯がまったく生えていない時期、上と下あごの骨のなかには、これから生えてくる歯のあかちゃん(歯の種のようなもの)が、埋まっていて、生えるための準備、スタンバイをしています。この歯の赤ちゃんを『歯胚:しはい』といいます。
歯胚は、成長の過程で、歯が生えてくるまでの間に、歯のかたちを作りあげていく大切な場所になります。
いうなれば『歯の赤ちゃん、歯の種でもあり、歯の建設現場』みたいなものだと思ってください。
乳歯には乳歯の歯胚が、永久歯には永久歯の歯胚があります。
ですので、もし、歯胚が無ければどうなるでしょうか?歯は存在しなくなります。歯の種がないわけですからね。
つまり、いくら待てども歯が生えてくることはない、ということです。
うまれつき歯胚がない場合の歯は、『先天欠如歯:せんてんけつじょし(生まれながらに欠損している歯)』といいます。
さて、ここで、冒頭にある写真をみてください。
このワンちゃんは、2歳にして下あごに、本来生えているべき永久歯である犬歯が左右ともに生えていませんでした。
その理由は、いまお話した、下あごの犬歯(永久歯)の歯胚がないために、犬歯が生まれつき存在しなかったためです。つまり左右の下あご犬歯は先天欠如になります。これはあくまで、歯科の専門的な検査の結果、判明したものになります。
もし、検査せず見ただけで、『この年齢で歯が生えてないので先天欠如だな』と安易な判断してしまうと・・・そこに病気が潜んでいることもありますので注意しましょう(後述)。
では、今度は逆に、歯胚の数が本来の歯の本数より余計に多い場合はどうでしょうか?歯胚が余計に多いということは、いうなれば歯の種が多いわけです。
つまり、本来なくてもいい歯、余分な歯があるということになりますので、その歯は、過剰ということになります。
この場合の歯を『過剰歯:かじょうし』といいます。
いまお話したように、歯胚の有無が、成長してからの歯の本数に影響しているということは、ぜひ覚えておきましょう。
さて、これまでお話した部分は、基本的なお話でした。
歯が生えない理由が先天欠如であるならば、とりたてて異常事態ではありませんので、安心してください。
しかし、歯が生えてこない理由が、別にあるならば、それは、不安につながるものだったりするのです・・・。
では、ここから先は、『歯が生えないことは・・・本当に大丈夫か?異常事態が隠れている可能性もある』そんなお話を最後にしていきたいと思います。
ここから先は、ぜひ目を皿のようにして、どうぞご覧ください。
ところで、皆さん、誰もが子供のころに『触ると乳歯がグラグラと動いている』という経験をされたと思います。
これはなぜ起きるかご存知ですか?
その理由は、『乳歯のあとに控えている永久歯が生えてこようとして、上に向かって伸びてくるときに、乳歯を歯の根っこ側から溶かすため』です。
つまり、『乳歯がグラグラ動いている、もうすぐ乳歯が抜ける頃かな?』という状況は、『永久歯がもうすぐ生えてきますよ・・というサイン』でもあるわけですね。
この『乳歯がグラグラ動く』は成長過程で必ず起きるイベントです。
この乳歯がグラグラ動いて、永久歯に生え変わる時期は、必ず訪れるわけなのですが、通常、永久歯が生えるべき時期(月齢・年齢)をすぎても、乳歯が動きもしない場合があります。
例えば、『イヌやネコでは生後1年(1歳)、だと、一般的に生えているすべての歯が、永久歯でなければいけません』
犬種差・猫種差・個体差はありますが、文献によりますと、概ね生後3カ月~7、8カ月のうちに、乳歯から永久歯への生え変わりが起きるとされています。
しかし、本来抜け落ちていなければならない乳歯が1歳という時期を過ぎても、残っていることがあります。
このような抜けるべき乳歯が残っている状態を『乳歯の晩期残存:ばんきざんぞん』といいます。
乳歯の晩期残存は、本来、永久歯が生えることによって溶かされるべき、乳歯の根っこが、永久歯の先天欠如があったり、永久歯の生えてくる場所や向きの異常によって溶かされずに、乳歯が抜け落ちずにそのまま残っている状態です。とくに小型犬ではよくみる機会がありますので、今度、このテーマでお話する機会をつくりたいと思います。
さて、乳歯がグラグラして抜け落ちたとしても、そこに今度は、永久歯がうまく生えてこない場合があります。
生えそろうべき時期を過ぎても、先天欠如を除き、永久歯が生えてこないときは、なにか異常事態が起きている可能性も疑わなければなりません。
例えば以下①~⑦のようなことが起きている場合、永久歯が生えてこれない原因になることがあります。
これら生えてこれずに埋まったままになった状態の歯を埋伏歯(まいふくし)といいます。埋伏歯になった状態で、とくにシビアな異常事態は、★⑤の腫瘍(しゅよう)や嚢胞(のうほう)といった病気が関係している場合です。
これを野放しにしておくと、あごの骨だけでなく顔の骨が溶けてしまったり、まれに腫瘍が『がん化』してしまうタイプのものもあり、命の危険にさらされるものもまのでありますので、注意が必要です。スライドに5枚目の写真にありますように、歯が生えてこない場所が、腫れていたり青紫色をしている場合には、埋伏歯となり、腫瘍や嚢胞が該当している可能性が高いので、ぜひ注意してくださいね。
埋伏歯については、また別の機会にお話したいと思います。
以上、『歯が生えてこない・・・おかしいぞ?』と思ったら、先ほどの先天欠如の可能性や、いまお話した①~⑦が該当することもあるので、決して甘くみず、異常事態が起きている可能性も考えましょう。傷害を起こすような、かみ合わせの異常にも発展する場合がありますので、ワンちゃんネコちゃんの歯の数、歯が生えてない部分などは、ぜひこまめにチェックしておいてくださいね。
このような歯の生えかわりがきちんと行われているか、歯の有無や、異常がないかをできるだけ早期にみつけられるように、当科ではまず、『3カ月齢、6カ月齢、12カ月齢(1歳)』のタイミングで、ワンちゃんネコちゃんの歯科検診を推奨しています。人間でいう学校歯科検診や乳幼児歯科検診のような位置づけです。
不安な飼い主さんは、どうぞ気軽にご相談ください。
今回は長くなりましたが、お付き合いいただきありがとうございました。
今後とも引き続き何卒よろしくお願い申し上げます。
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